Reconsideration of the History
157.君側の奸 ── 皇室解体を目論む小泉総理と有識者会議は「朝敵」だ!!(2005.11.24)

前のページ 次のページ


回のコラム156.『皇位継承は男系男子維持を!! ──「寬仁親王発言」に見る有識者会議の不遜』に於いて、小泉総理(以下、単に「小泉氏」と略)の私的諮問機関である「皇室典範に関する有識者会議」(以下、単に「有識者会議」と略)が、皇族方の意見を聴く事無く勝手に議論を進め、従来からの皇位継承法の根幹である「男系男子」継承を破棄し、「男系女子」(女帝実現)・「女系継承容認」(男系継承の放棄)、更には「男女の別に関係無く第一子継承」(兄弟姉妹間に於ける皇男子優先継承の放棄)と言う、皇統の質的激変を孕(はら)む重大な変更で意見集約を図っている姿勢に対して、今上(きんじょう)天皇の従弟(いとこ)である寬仁(ともひと)親王殿下が初めて口を開き ── 然(しか)も有識者会議に対して異を唱えた事に付いて触れました。因(ちな)みに、寬仁親王の御発言の要旨は以下の通りです。

寬仁親王の御発言 (『皇室典範』改正に関する部分の要旨)
  1. 元皇族の皇籍復帰 (註:詳しくはコラム『昭和22年の「皇籍剥奪」を撤回せよ!! ── 「皇統断絶」危機に対する処方箋(上)(下)』を参照)
  2. 女性皇族に養子を男系の元皇族からとる事が出来るよう定め、その方に皇位継承権を与える
  3. 廃絶になった宮家(秩父宮、高松宮)の祭祀(さいし)を元皇族に継承してもらい再興する
  4. 側室制度の復活

この内、「側室制度の復活」に付いては、大正天皇以降の諸帝が何(いず)れも一夫一婦制を貫いている事、又、国民自体も一夫一婦制である事等から、国民の皇室観にマイナスに作用する虞(おそれ)があり、実現は極めて困難と言えます。然(しか)し、その他の点に付いては、政府なり宮内庁なりが国民に対し、きちんとした説明責任を果たしさえすれば、国民が充分納得し賛同出来得るレベルの話である訳です。

(さて)、寬仁親王発言の話題も冷(さ)めやらぬ中、今度は寬仁親王も御発言の中で触れていた「元皇族」の内、旧「竹田宮」家のプリンス、竹田恒泰氏(下系図参照)が皇籍復帰に言及しました。

旧竹田宮家(現竹田家)系図

旧皇族は皇籍復帰の覚悟を 竹田家男性、宮家の役割著す

 戦後、皇籍を離脱した旧皇族・竹田家の竹田恒泰氏(30)が、皇位継承の歴史や宮家皇族の役割に言及した本を近く出版する。この中で、「男系でない天皇の誕生は『万世一系の天皇家』の断絶」と指摘、旧皇族の男子は皇籍復帰の覚悟をもつべきだとしている。発刊にあたって一部の皇族や旧宮家当主らにも相談したといい、小泉首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」が女性・女系天皇容認の答申を近く出す見通しの中で、論議を呼びそうだ。

 『語られなかった皇族たちの真実』(小学館、1365円)。竹田氏の祖父は「スポーツの宮様」として知られた故竹田宮(たけだのみや)恒徳(つねよし)王で、父は日本オリンピック委員会会長竹田恒和氏。

 「皇統のスペアとして、また天皇を守る存在として宮家の果たしてきた役割についてわかりやすくまとめた類書がない」のが執筆の動機という。

 終戦時に昭和天皇の指示で軍の説得に当たり、戦後は占領政策で皇籍を離脱せざるをえなかった歴史を紹介。また男系継承の伝統の重要性を強調し「皇室の存在意義を守り抜くために、旧皇族の男系男子は責任を果たさなくてはならない」としている。

 11宮家の皇籍離脱について重臣会議で鈴木貫太郎元首相が加藤進宮内次官に「皇統が絶えることになったならどうであろうか」と疑問を提示。加藤が「かつての皇族の中に社会的に尊敬される人がおり、それを国民が認めるならその人が皇位についてはどうでしょうか。しかし、適任の方がおられなければ、それは天が皇室を不要と判断されるのでしょう」と述べたという逸話も盛り込まれている。

 典範改正をめぐっては、三笠宮寬仁さまが女性・女系天皇容認に異議を唱える随筆を公表している。

(朝日新聞) - 2005年11月19日08時08分
配信元URL:http://www.asahi.com/national/update/1119/TKY200511180360.html

この様に、皇族(寬仁親王殿下)・元皇族(竹田宮恒徳王の孫、竹田恒泰氏)双方(当然乍(なが)ら、「有識者会議」のメンバー以上の皇室関係者・研究者等の「有識者」も含めて)から、異議・反発が出ているにも関わらず、小泉氏も有識者会議もそれらを無視する形で、11月21日、第16回会合を開き、其処(そこ)

男系男子に限定した皇位継承資格を女子及び女系にも拡大

皇位継承順位は男女に限らず天皇直系の第一子を優先

で意見集約。24日の最終会合を以て小泉氏に報告書を提出する事に決しました。然し、何度も言う様ですが、「世界最古にして最長の王朝」である皇室の、然も最も重要な皇位継承問題に付いて、皇族や元皇族、その道の専門家と言った真の意味での「有識者」を除外し、有り体(てい)に言えば「無識者」=「門外漢」でメンバーを固めた「有識者会議」にどれ程の「権威」があると言うのか? いや、端(はな)から「民営化ありき」ならぬ「女帝ありき」と言う結論を用意し、それに沿う形で報告書を出させる、「結論誘導」手法を使う小泉氏に対しては、果たして本当に皇室の存続を考えているのか? 正直疑ってしまいます。いや、よりはっきり言えば、彼らは『皇室典範』の改正にかこつけて、皇室の弱体化と、その延長としての廃絶をも目論んでいるとすら言えます。

えば、その一旦を垣間(かいま)見せる様な発言を、当の「有識者会議」座長である吉川弘之氏自身がしています。曰(いわ)く、

「男系男子(の伝統維持)を主張される方がいるが、我々は歴史観や国家観で制度を作った訳では無い。

と。『記紀』(『古事記』と『日本書紀』の総称)の記述に従えば、今年は皇紀2665年。「皇紀」が初代・神武天皇即位の年(紀元前660年)を元年とする紀年法である事を考えれば、日本の皇統は今上天皇で125代、実に二千年以上の歴史を有する世界の王家の中でも「老舗(しにせ)中の老舗」である訳です。そして、当然、それに見合うだけの悠久の歴史と文化・伝統も有しており、ひいては、その皇室を中心に「日本」と言う国民国家(ネーションステイツ)が成り立っている訳です。その日本を「日本」たらしめている中心的存在である皇室の重要な問題に対して、

我々は歴史観や国家観で制度を作った訳では無い

とは、一体どう言う事なのか? 詰まり、吉川座長は、歴史も国家もへったくれも無い。そんなものはどうでも良い、と言っている訳です。(因みに彼の専門は血の通わない「ロボット工学」) そんな人間が果たして「有識者会議」の座長、いや、メンバーとして適格なのかどうか? 私は疑問を投げ掛けざるを得ません。

、「有識者会議」が推進する「女系継承」についても非常に危惧しています。例えば、11月18日の記者会見の席上、鳩山由紀夫・民主党幹事長は以下の様に述べています。曰く、

「夫の家系が将来天皇になるならば、自分の家系を天皇家にしたい意図を持つ人達が、屡々(しばしば)そう言う意図を持って行動するだろう。天皇家の安泰に繋がるのか?」

と。私も同感です。

統の歴史を紐解(ひもと)けば分かる事ですが、古くは尾張・葛城(かつらぎ)・大伴(おおとも)・物部(もののべ)・蘇我と言った豪族、奈良・平安以降は藤原家が一族の女子を天皇或(ある)いは皇子(次期天皇候補)に嫁(とつ)がせ、それを強みにして、所謂(いわゆる)「外戚(がいせき)」として権勢を恣(ほしいまま)にしてきました。それでも、従来の「外戚」は、一族の女子が皇后や中宮と言った「天皇の妻」になると言うレベルの話でした。然し、「有識者会議」の提言では、女性皇族(内親王・女王)は結婚後も皇籍に留まり、夫となった男性も皇族になり、二人の間に産まれた子供にも皇位継承権が発生するとしており、「男系男子」による皇位継承を伝統として守ってきた皇統の歴史からみれば、女性皇族とその夫の間に産まれた子供が皇位に即(つ)く事は、即(すなわ)

夫の家系(男系)による新王朝の成立

と言っても過言では無い極めて重大な皇統の質的変化をもたらす訳で、これはある意味、現在の

皇統の断絶

に等しいとさえ言え、非皇族の血がどんどん濃くなっていく事で、皇室と一般国民との間の境界(ボーダー)が希薄(皇室を「皇室」たらしめている一種の「希少価値(ステータス)」の著しい低下)となり、鳩山氏の指摘通り、「天皇家の安泰」どころか、逆に「天皇家の廃絶」(民間化した「皇室」に国民が必要性を感じなくなる)に直結する可能性すらある訳です。

の他にも様々な難題が待ち受けています。例えば、「有識者会議」の提言では、女性皇族は結婚後も皇籍に留まり、新たに宮家を創設する事が出来るとし、更に、皇族の範囲に付いては、皇族の子孫は全て皇族とする「永世皇族制」とする、としています。これに付いては既に、皇族が多くなると財政負担が増える懸念が指摘されており、この問題に付いては、皇太子等を除く皇族は自らの意思がある場合に皇室を離れる事が出来る「皇籍離脱制度」を活用するとしています。然し、若しも皇室が肥大化し、且つ、皇族が誰一人として皇籍離脱しない時には、どう対処するのか? 永世皇族制を謳う以上、何世代経ても皇族は皇族であり、自ら離脱の意思を示さない限り、皇籍離脱はあり得ず、文字通り「鼠算(ねずみざん)」式に皇族の数だけが増えていく・・・。古来、皇室では宮家も含めて、皇室肥大化を抑制するシステムとして、数世代を経ての皇籍自動的離脱=臣籍降下(源氏や平家等)や法親王(ほっしんのう;男性皇族が出家し門跡(もんぜき)寺院へ入室)と言った制度が機能していました。然し、明治以降、廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)の中で法親王の制度は廃止され、臣籍降下制度も無くなりました。そこへ持ってきての永世皇族制です。今後、皇族の数をどう制御していくのか? 青写真が丸きり見えてこず、「有識者会議」の言う「皇籍離脱制度」活用は、単に「その場凌ぎ」=問題の先送りとしか映りません。

、女帝は「天皇(陛下)」と呼ぶにしても、女帝の夫となった男性は何と呼ぶのか? 皇統の歴史には前例が無く、当然乍(なが)ら呼称等存在しません。外国王室の例では、「皇配」・「皇婿(こうせい)」と言う呼称がありますが、それを導入するのか? 又、女帝の夫の敬称も「陛下」と呼ぶべきなのか? それ共、「殿下」と呼ぶべきなのか? 更には、内親王(殿下)の夫となった男性は何と呼ぶのか? 「内親王夫(ふ)殿下」とでも呼ぶのか? そう言った細部が何ら煮詰まっていません。この様な、単に「女帝ありき」・「女系ありき」で、穴だらけの提言等、到底「叩き台」として相応(ふさわ)しいとは言えないのです。

後に、今一度、小泉氏と「有識者会議」に対し、異を唱える方々の発言を紹介したいと思います。

「世界に類を見ない(男系で続いてきた)我が国固有の歴史と伝統をいとも簡単に変更して良いのか」(寬仁親王殿下:福祉団体「柏朋会」の会報中の随筆に於いて)

「皇室の存在意義を守り抜くために、旧皇族の男系男子は(皇籍復帰と言う)責任を果たさなくてはならない」(竹田恒泰氏:著書『語られなかった皇族たちの真実』中に於いて)

「男系継承の皇室の伝統を維持する為に旧皇族の復帰を検討するべき(中略)(皇位継承の論議では)現在の皇族の方や旧皇族の方からも意向を伺う事が大事」(小堀桂一郎・東大名誉教授:11月6日の「皇室典範問題研究会」結成発表記者会見に於いて)

「皇位継承問題を(経済構造)改革の感覚でやってもらっては困る。男系で綿々と続けるべきだ」(平沼赳夫・元経済産業相:11月20日のテレビ番組に於いて)

「夫の家系が将来天皇になるならば、自分の家系を天皇家にしたい意図を持つ人達が、屡々そう言う意図を持って行動するだろう。天皇家の安泰に繋がるのか?」(鳩山由紀夫・民主党幹事長:11月18日の記者会見に於いて)

「天皇制を最終的に無くしたいと言う意図を持ってやっているのなら、こうした方向性で良いのかもしれない。然し、天皇制が存続する前提なら、どうすれば良いのかを考えるべきだ(中略)二千年の歴史を踏まえた議論をしなくてはいけないのに、何ヶ月、一年間の議論で片が付く筈が無い」(上田清司・埼玉県知事:11月22日の定例記者会見に於いて)

寬仁親王の「爆弾発言」は、ある意味、平安末期の治承4(1180)年、全国の源氏に対して後白河法皇の第二皇子・「最勝親王」以仁王(もちひとおう)が発した平家追討の「令旨(りょうじ)」にも匹敵するものです。その意味では、小泉氏と「有識者会議」は正に、

君側の奸  朝敵

君側の奸(くんそくのかん)
 天皇のお側(そば)に在(あ)って邪魔をする不忠者。

朝敵(ちょうてき)
 朝廷=天皇に背(そむ)く賊。国賊。

と評するのが当を得ている、と私自身は思っていますが、皆さんはどの様に感じられたでしょうか?


   余談(つれづれ)

平成15(2003)年5月7日発表のコラム120.『不磨の大典『日本国憲法』は国際法違反の産物』に於いて、私は日本を占領統治していたGHQ(連合国軍総司令部)が国際法に違反して制定(改正)を強いた『日本国憲法』に付いて、その法的有効性を否定し、昨今の憲法改正論議云々以前に、一度、国際法違反の産物である『日本国憲法』を破棄、日本人自身が制定した日本独自の正統な憲法である『大日本帝国憲法』(以下、『明治憲法』と略)に復した上で、その『明治憲法』を「改正」すべきである、と論じました。では、翻(ひるがえ)って『皇室典範』(以下、『現典範』と略)はどうか? 昭和22(1947)年に改定される以前の『皇室典範』(以下、『旧典範』と略)は、当時の『明治憲法』と同格、いや、皇室に関する事項に付いて、政府及び帝国議会が一切関与する事が出来ない、所謂「皇室大権」(「皇室自律権」共言う)を認めていた事から考えれば、『明治憲法』の上位に位置する日本に於ける最高法典でした。そして、その『旧典範』の第62条には、

「将来此(こ)ノ典範ノ条項ヲ改正シ又ハ増補スヘ(べ)キノ必要アルニ当(あたり)テハ皇族会議及(および)枢密(すうみつ)顧問ニ諮詢(しじゅん)シテ之(これ)ヲ勅定(ちょくじょう)スヘ(ベ)シ」

と明記され、政府も国会も勝手に改正する事は認められていませんでした。然し、昭和22年、その条項を無視する形で「改正」され、『現典範』が成立した訳です。詰まり、『現典範』も『日本国憲法』同様、法的有効性に疑問が投げ掛けられる訳です。であるならば、小泉氏とその意を体した「有識者会議」が皇位継承法に付いてメスを入れる以前に、法的に正当性が無い『現典範』を破棄し、一旦、『旧典範』に復した上で、其処を基点に改めて論議するのが筋であり、その主体はあくまでも皇室及び元皇族であるべき、と私は考える訳です。


前のページ 次のページ