Reconsideration of the History
196.実に領土の6割を消失する!! チベット・ウイグル・・・「中国」が最も恐れる分離独立の連鎖(2008.5.8)

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(さて)、前々回(194.第二のチベット動乱 ── チベットは「中国のコソボ」だ!!)・前回(195.チベットに「自治」等いらない!! ただ「独立」あるのみ!!)に引き続き、今回も国際的にも脚光を浴び外交問題化しているチベット問題を論じてみたいと思います。

(2008年)3月以来、西蔵(チベット)自治区をはじめとする「中国」国内の各省で頻発しているチベット民族による様々な「蹶起(けっき)(私は「中国」が主張する「暴動」と言う語を使わない)の様子が、非「中国」系メディアから流れてきますが、その多くがデモ行進であったり、武装警察や軍等の鎮圧部隊への「投石」であったり、棒等を使った建物に対する硝子(ガラス)の破壊であったりと言った具合で、その「装備」の貧弱さには目を疑うばかりです。相手(鎮圧部隊)は重火器はおろか最新鋭の重装甲車(右写真:米NBC)迄投入している事を考えると、正に「決死の覚悟」での「蹶起」であった事が伺えます。(実際、多くの死傷者が出ている) 尤(もっと)も、刀やピストルに素手で対抗する様なものですから、あっと言う間に鎮圧されてしまうのは目に見えており、現に「蹶起」は「中国」の力(武力)の前にあっさりと潰え去ってしまいました。然(しか)し、その「副産物」は余りにも大きく、チベット民族はある意味で「大きな戦果」を上げたと見る事が出来ます。

ベット民族が上げた「大きな戦果」とは何なのか? 例えば、日本を含む国際社会に於けるチベット問題の認知度向上。今迄(まで)、チベット問題を全く知らなかったり、知ってはいたものの関心が無かった人達の目をチベットへ向けさせた事。一連の報道やインターネットを流れる様々な情報が、どんな新聞の一面広告やテレビのCMをも上回るPR効果を上げたであろう事は明らかです。それ迄、「チベット亡命政府(ガンデンポタン)」や所在地である印度(インド)北部の都市「ダラムサラ」、更には、亡命政府主席大臣(首相)「サムドン=リンポチェ」(右写真)等の名詞がメディアに載る事は先(ま)ず以(もっ)てありませんでしたが、今や誰もがとは言わない迄もかなり多くの人達が知る所となった事だけは確かです。更に、先月(4月)26日に長野市内で行われた北京五輪聖火リレーや、一昨日(5月6日)の胡錦涛(フー=チンタオ)「中国」国家主席の来日に際して馳(は)せ参じ、在日チベット人達とデモや抗議活動をした日本人達。彼らは各国で行われた聖火リレーに際して、「中国」当局が資金面等で在留支那人(中国人)を支援して結集させたのとは異なり、目的地迄の交通費は自己負担、何の見返りも無い正(まさ)に「手弁当」での参加だった訳で、中華民国の国父・孫文(スン=ウェン)、越南維新会(ベトナム・ドゥイタンホイ)潘佩珠(ファン=ボイ=チャウ)、印度のラース=ビハーリー=ボースやスバス=チャンドラ=ボース等、多くの近現代アジア独立運動家と親しく遇し、物心両面に於ける支援を通じて、革命の拠点或(ある)いは前線基地としての役割を担った嘗(かつ)ての日本を彷彿とさせるものがあります。その影響でしょうか? 胡錦涛は今回の来日に際し、今迄、歴代「中国」指導者により鸚鵡(オウム)の如く繰り返されてきた「日本の歴史問題」には触れず、「中日友好」や「戦略的互恵関係」等と言った甘い言辞、更には先月(4月)30日に死んだ上野動物園のリンリンに代わる新たなパンダの提供(但し、無償では無い事に留意)を確約し、対中感情が悪化している日本(国家であり国民)の機嫌を何とか取ろうと躍起でした。然し、一旦、火が付くと中々、消すのは容易ではありません。チベット問題も同じ事で、武力で強引に鎮圧した所で、問題の根本的且つ全面的解決が為された訳では決して無いのです。

り返しますが、「中国」は石ころや棒きれ等の貧弱な装備しか持たないチベット民族の蹶起に対して、軍の近代的装備を投入し、力でねじ伏せました。詰まり、現状ではどんなにチベット民族が蹶起しよう共、「中国」の武力の前には全く歯が立たない訳です。にも関わらず、「中国」はチベット問題の火消しに躍起になっていますし、今月4日、「中国」南部、広東(カントン)省深圳(しんせん)市で行われた「中国」側とダライ-ラマ14世の特使との非公式交渉でも、今回の問題ではダライ-ラマ14世側に非があり、

「ダライ-ラマ側が誠意を見せ、(北京五輪破壊活動の停止等3条件を)行動に移せば、接触・協議は今後も継続する筈だ」(秦剛・中国外交部新聞司副司長(写真)の2008年5月6日の定例記者会見での発言)

との頑(かたく)なな姿勢を崩してはいません。それは何故(なぜ)なのか? 相手はたかだか石ころや棒きれでしか抵抗出来ないチベット民族です。独立したとて、軍事的な脅威には到底成り得ませんし、ましてや、ダライ-ラマ14世が求めている高度な自治を認め、チベット仏教への介入さえしなければ、「みほとけ棲(す)まう国」なのですから温和(おとな)しくするであろう事は目に見えています。にも関わらず、彼らは一体何を恐れていると言うのか? 何が彼らを其れ程(それほど)、意固地(いこじ)にさせているのか?

ベット民族は今回、西蔵自治区だけで無く、青海・四川・甘粛・雲南四省のチベット民族居住地域に於いても「蹶起」しました。西蔵自治区の面積は凡(およ)そ122万平方キロメートルで、「中国」全領土(台湾は含まず)面積の12.7%に相当(先に独立したコソボのセルビアに対する面積比にほぼ匹敵)しますが、西蔵自治区だけで無く、青海省及び周辺三省のチベット民族居住地域(チベット族自治州及び自治県)を含む所謂(いわゆる)「大チベット」となると、面積は凡そ226万平方キロメートルで、何と「中国」全領土面積の23.6%に相当します。因(ちな)みに、日本の総面積は凡そ37万8千平方キロメートルですから、「大チベット」の中に日本が6個弱入る勘定。流石(さすが)、内陸アジアに占めた大国だっただけの事はあります。実に広い!! 然し、縦(よ)しんば「中国」が折れて、「大チベット」の高度な自治や独立を認めたら、次に一体何が起こるのか? 「中国」はチベット云々よりも寧(むし)ろ、そちらの方に関心があり、チベット問題の差配次第ではそれを遙かに上回る状況に陥ると見て、極めて深刻な危機感を抱いているのです。では、一体それが何なのか? それは、チベット同様、「中国」が抱える民族問題にあるのです。

ベット民族は石ころや棒きれでしたが、「彼ら」は銃器はおろか爆弾すら持っています。そして、自らの信仰する宗教「イスラムの教え」に則(のっと)り、「聖戦(ジハード)」の名の下(もと)、自爆する事すらも何ら厭(いと)いません。彼らの名は「ウイグル」。現在、新疆維吾爾(しんきょう-ウイグル)自治区に主として居住し、「東トルキスタン」の「中国」からの分離独立を求めて闘争を続けている民族運動に於ける武闘派最右翼です。その彼らからすれば、「中国」がチベットに高度な自治を認めたり分離独立を認めておいて、自分達ウイグル民族が分離独立出来ない理由は無いと思うのは至極当然の事です。「中国」に対して即時の分離独立を要求するでしょうし、要求が受け容(い)れられなければ、今迄以上に過激な行動 ── 例えば、イスラエル領内に於けるパレスチナ人による無差別自爆テロ ── に匹敵する行動に打って出る可能性も無きにしも非(あら)ずです。然も、相手(ウイグル人過激派)は、あのオサマ=ビン=ラーディン率いる国際テロ組織「アル-カイーダ」で軍事教練を受け、武器の提供も受けている共囁(ささや)かれている武闘派です。蹶起したチベット人とは訳が違います。武装警察や軍も相当手を焼く事は目に見えています。チベットへの寛容な対処は、そんな相手を増長させるだけと「中国」が考えたとしても何ら不思議ではありません。又、「中国」国内には、チベット・ウイグルだけで無く、余り注目はされていませんが、「南モンゴル」(内蒙古自治区)の分離独立運動(最終目的はモンゴル国との統合)もありますし、北京の指導部に対する複雑な感情から、東北三省(遼寧省・吉林省・黒竜江省)=「満州」が自立する可能性もあるのです。若(も)し、チベットの分離独立を機に、ドミノ効果で東トルキスタン・南モンゴル、そして、満州さえも「中国」から分離独立したら・・・その総面積は、何と凡そ585万平方キロメートル

「中国」は全領土の6割もの広大な地域を消失する!!

事となるのです。であればこそ、「中国」は例え国際社会の非難を浴びようと、チベットに対して頑なな姿勢を維持せざるを得ない訳です。

分離独立運動のある地域の面積と「中国」に対する面積比
地域名 省級行政区 下級行政地域 面積(km2 面積比
チベット ウ-ツァン(衛蔵)地方 西蔵自治区   1,220,000 12.7%
アムド(安多)地方 青海省   720,000 7.5%
カム(康)地方 四川省 阿壩(ガパ)蔵族羌族自治州 84,200 0.9%
甘孜(カンゼ)蔵族自治州 156,000 1.6%
涼山彝族自治州木里(ムリ)蔵族自治県 13,252 0.1%
甘粛省 甘南(ケンロ)蔵族自治州 40,201 0.4%
武威市天祝(パリ)蔵族自治県 6,865 0.1%
雲南省 迪慶(デチェン)蔵族自治州 23,870 0.2%
(全チベット総面積)  2,264,388 23.6%
東トルキスタン 新疆維吾爾(ウイグル)自治区   1,600,000 16.7%
南モンゴル 内蒙古(モンゴル)自治区   1,183,000 12.3%
満洲 遼寧省   145,700 1.5%
吉林省   187,000 1.9%
黒竜江省   469,000 4.9%
(全満洲総面積)  801,700 8.4%
上記四地域の総面積 5,849,088 60.9%

は言え、チベットにしろ、東トルキスタンにしろ、南モンゴルにしろ、満州にしろ、孰(いず)れの地域も、「中国」が侵略し占領、併合した地域である事に何ら変わりはありません。彼(か)の地に住む人達が、「中国」領となった経緯を百も承知の上で、それでも「中国」として一緒にやっていくのだと言うのであれば、我々日本人を含む「外野」(国際社会)が兎(と)や角(かく)言う必要は全くありません。然し乍(なが)ら、彼の地に住む人達は、ヨルダン川西岸地区にイスラエル領内から入植してきたユダヤ人よろしく後(あと)から入植してきた支那人(所謂「漢民族」)を除けば、「中国」からの分離独立を強く求めています。であるならば、「中国」は侵略行為を反省し、占領・併合地域を速(すみ)やかに「解放」せねばなりませんし、「中国」から過去の侵略を事ある毎(ごと)に糾弾され続けてきた我々日本も、逆に「中国」を糾弾し、「中国」が占領・併合し続けている諸地域の分離独立を強く支援せねばなりません。

「中国」大分裂予測図ベット・東トルキスタン・南モンゴル・満州が全て分離独立したとて、「支那」の語源となった秦(チン Chin)や、文字や民族名に名を残す漢(ハン Han)と言った支那史上最初の統一帝国に重なる領域は支那人(漢民族)の手に残るのです。支那人は、その新たな「中国」で由(よし)とす可(べ)きですし、分離独立を果たした「周辺諸国」と共存共栄していく道を模索していく可きなのです。徒(いたずら)に領土を拡張したり必要以上の軍拡に走る事は、周辺地域の警戒感や疑心暗鬼を増大させるばかりであり、「中国」は如何(いか)にして国内の民族問題を平和裡に解決=「小中国」として軟着陸し、再離陸するかに腐心す可きです。でなければ「中国」は・・・ユーゴスラヴィア内戦はおろか、チベット・ウイグル・モンゴル等の国内の諸民族を巻き込んだ五胡十六国時代の様な天下大乱に陥る事でしょう。

ールはチベット民族から投げられました。そのボールをきちんと受け止め、投げ返すのも、投げ返さないのも、後は支那人次第です。その事を「中国」指導部は改めて認識し、身の振り方に結論を出す可きでしょう。(了)


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