Reconsideration of the History
197.「開戦も辞さず!?」── 日本領・尖閣諸島を巡る台湾国民党政権の姿勢を糺す!! (2008.6.15)

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の発端は、今月(2008年6月)10日早暁に起きました。

巡視船接触 台湾漁船が沈没、16人無事救助 魚釣島沖

6月10日13時35分配信 毎日新聞

台湾遊漁船「聯合号」  10日午前3時20分ごろ、沖縄県石垣市の尖閣諸島・魚釣島(中国名・釣魚島)南沖約10キロの日本領海内で、台湾船籍の遊漁船と第10管区海上保安本部(鹿児島市)の巡視船こしき(966.22トン、堤信行船長ら32人乗り組み)が接触した。

 遊漁船の船員3人を含む男性16人全員は救命いかだに乗り移り、こしきが救助した。遊漁船は約1時間15分後、魚釣島南南東沖約7キロで沈没した。船長が右ひざなどに軽傷。

 尖閣諸島は中国、台湾が領有を主張している。第11管区海上保安本部は、16人は領有を主張する活動家とは無関係の船員と釣り客とみて調べている。こしきは正午ごろ、石垣港(石垣島)に入港、11管が16人から事情を聴く。

 11管の調べでは、遊漁船が領海内を航行しているのをこしきが見つけ、接近したところ、遊漁船がジグザグ航行を始めたため追跡。遊漁船が急に右に方向転換し、遊漁船の右舷船橋付近の側面にこしきの左舷船首が接触したという。【三森輝久】

(写真:巡視船と接触した台湾の遊漁船「聯合号」=2008年6月10日午前3時半頃 第11管区海上保安本部)

今迄(いままで)幾度と無く論じて来た事であり、今更(いまさら)言う迄も無い事ではありますが、

尖閣諸島は日本の領土

です。(詳しくは、末尾を参照の事) その日本領海を侵犯して他国籍船が漁をしていれば、それは当然、密漁(違法操業)と言う事になりますし、その船を質(ただ)すのは、海上保安庁の巡視船の任務です。然(しか)し、相手の船は逃走を図りました。逃走を図った違法船を追尾し停船させ拿捕(だほ)する事も、海上保安庁の巡視船の任務です。映画『海猿』だけが海上保安庁の仕事では無いのです。日本の海(領海)の安全を護(まも)る事も又、海上保安庁の重要な任務なのです。話が少し横道に逸れてしまいましたが、ジグザグ航行で逃走を図っていた台湾船に追尾していた日本の巡視船が接触、結果的に台湾船が沈没した訳ですが、(そもそ)も、台湾船が領海を侵犯して日本領・尖閣諸島の近海で密漁をしていなければ、そして、巡視船の命令に素直に従っていさえすれば、この様な事態に迄至らずに済んだ訳です。然し、たった一隻の密漁船の沈没に対して、共に尖閣諸島の主権を主張している台湾と「中国」(支那)は即座に過剰な反応を示しました。

馬総統が尖閣の領有権主張 船舶衝突、沈没めぐり

06/12 21:21 産経新聞

【台北支局】尖閣諸島・魚釣島近海の日本領海内で日本の巡視船と台湾の遊漁船が接触し遊漁船が沈没した事故で、台湾の馬英九総統は12日、「釣魚台(尖閣の中国語名)は中華民国の領土である」と述べ、総統として日本に賠償などを要求する声明を発表した。

 声明は、(1)釣魚台は台湾に帰属する島嶼である(2)釣魚台の主権を維持する決心に変わりない(3)日本政府の船艦がわが国(台湾)領海で、わが国の漁船を沈没させ、わが国の船長を拘留したことに抗議し、船長の釈放と賠償を要求する(4)海巡署(海上保安庁に相当)の編成と装備の強化を行い、主権と漁業権を守る機能を高める−とした。

 馬総統はかつて尖閣の「中華民国帰属」に関する論文を書き、「日本と一戦も辞さない」と強硬姿勢を示したこともある。ただ、総統就任後は「実利を求める指導者は取り扱い方を知っている」と述べ、尖閣問題は棚上げとして経済関係の強化を優先する考えに軌道修正していた。

 だが、声明は領有権が絡む原則論では日本に妥協はしないという方針を鮮明にしたもので、今後の日台関係にも影響を与えそうだ。

 台湾の欧鴻錬外交部長(外相)もこの日、日本の在台代表機関・交流協会台北事務所の池田維代表(日本大使に相当)を呼び、尖閣の帰属権を主張し、今回の日本の対応に遺憾の意を表明した。しかし、池田代表は「尖閣が日本の領土であることは歴史的にも国際法上も疑いがない」と反論、台湾側の主張に「領有権に関して解決すべき問題は存在せず、要求は受け入れられない」と抗議した。

漁船沈没に「強い不満」 中国が日本を批判

06/10 21:34 産経新聞

 中国外務省の秦剛報道官は10日の定例記者会見で、尖閣諸島(中国名・釣魚島)付近の日本領海で警備していた鹿児島海上保安部の巡視船と台湾の遊漁船が接触、遊漁船が沈没したことについて「重大な関心と強い不満」を表明、日本政府に尖閣諸島付近での「違法活動」を中止するよう求めた。

 中国政府は最近、日中関係を重視し、厳しい対日批判を控えているが、尖閣諸島の領有権問題は主権にかかわる敏感な問題のため、あらためて従来の主張を繰り返した。

 秦報道官は尖閣諸島について「古来中国固有の領土であり、中国は論争の余地のない主権を有している」と主張、日本側に事故の再発防止も求めた。(共同)

先月(2008年5月)20日、「中華民国」(台湾)総統に就任した馬英九(マ-インチュウ)氏率いる中国国民党政権(台湾国民党では無い事に注意)は、政権発足後、「親日」から「親中」に政策方針を転換。中台政権与党のトップ会談、台湾海峡両岸機関のトップ会談を通じて、急速に「中国」への接近を図っており、従来の日本との関係に付いても見直しを図り、日本と距離を置き始めています。そこへ持ってきて、今回の事件です。馬総統は、「尖閣諸島は台湾固有の領土」と言う建前の下(もと)、沈没した台湾船は「台湾の領海内で操業していた」とし、日本の巡視船が台湾の領海を侵犯して台湾船を追尾、沈没させた事に対する賠償を求める声明を発表しました。いや、それどころか、劉兆玄・行政院長(首相)が立法院(台湾国会)の場で

日本との開戦の可能性も排除しない

と答弁、更に昨日(2008年6月14日)には事実上の駐日台湾大使に当たる許世楷・台北駐日経済文化代表処代表の本国召還を発表する等、対日強硬姿勢=反日を前面に出してきています。そして、それに輪を掛けているのが「中国」の声明です。

馬英九氏「中国」は、今回の事件に対し、尖閣諸島に付いて「古来中国固有の領土であり、中国は論争の余地のない主権を有している」と主張。更に、日本政府に尖閣諸島付近での「違法活動」の中止 ── 詰まりは、海上保安庁の巡視船によるパトロールを止めろ!! ── を要求しました。尖閣諸島の領有権が日本にあることは疑う可(べ)くも無い事実ですが、現在、「中国」と台湾も領有権を主張している事は前述の通りです。又、馬英九・総統(右写真)率いる国民党政権は、陳水扁(チェン-スイピェン)・前総統率いた民進党政権が掲げた「正名」政策 ── 「中華民国」の名を廃して「台湾」に正す ── を全面否定し、前政権が「中華民国郵政」から改称した「台湾郵政」の名称を、再び「中華民国郵政」に復す等、政権カラーとして「中華民国」を前面に打ち出す方針を徹底しています。その一環として、「釣魚台列嶼(尖閣諸島の台湾側呼称)は中華民国固有の領土」であると言う主張を展開している訳ですが、「中国」にしてみれば、尖閣諸島の領有権を台湾が主張、たとえそれを日本が認めたとしても、孰(いず)れ、台湾は「中国」に「復帰」(実際は併合なのだが)するのだから(と「中国」は本気で考えている)、台湾の主張に目くじらを立てる必要等無い。寧(むし)ろ、此処(ここ)は、従来「親日」だった台湾を、この事件を契機に「中国」が台湾の側に立つ事で、日本と離反させ、一気に「親日」から「親中」へと台湾世論を誘導、日本を極東で孤立させる好機と見なしている様に見受けられます。(日本を孤立させた上で、中露朝韓台による日本包囲網を以て「中国」に屈服させる戦略) 然し、国交断絶後も文化面・経済面交流は深く、昨今は政治面での交流も活発化していた日台関係に於いて、概して「親日」だった台湾と、事ある毎に台湾に理解を示してきた日本の関係を今回の事件で破綻させて良いものなのか? 「反中・親台派」である私とて、台湾に対して苦言を呈したいとは思いません。思いませんが、時として苦言を呈さなければならない場面もあるのです。

総統は、以前、自身の論文に於いて、尖閣諸島の領有権は「中華民国」に帰属するとし、日本との領有権係争に対し、

日本との一戦も辞さず!!

との強硬姿勢を示した「前科」があります。然し、その馬総統に対して、「尖閣諸島が日本の領土」であると言う動かし難(がた)い明確な証拠を突き付けた上で、ご自身の発言を撤回して頂きたいと思うのです。では、その「動かし難い明確な証拠」とは一体何なのか? それを今からご覧に入れましょう。

(ここ)に沖縄県石垣市役所に保管されていた一枚の感謝状があります。先(ま)ずは、じっくりとご覧下さい。

感謝状

時は中華民国8年(大正8年,西暦1933年)の冬の事。中華民国(支那)福建省恵安県(現泉州付近)の漁民、郭合順氏ら31人が東支那海で遭難し、尖閣列島(尖閣諸島)の和洋島(魚釣島)に漂着。沖縄県石垣村の玉代勢孫伴氏(後に石垣村助役)等4人による熱心な看病が奏功し、皆元気に成り無事故郷へと還る事が出来た、と言う事件があったそうすです。そして、この時、自国民(支那人)に対して献身的な看護をしてもらったと言う事で、長崎駐在の中華民国領事・馮冕(ひょう-めん)の名で贈られたもの、それが上の感謝状なのです。(感謝状は、玉代勢氏・豊川善佐氏(当時の石垣村長)・古賀善次氏・松葉ロブナスト(与那国島出身の女性通訳)の4人にそれそれ贈られたが、現存している物は写真の玉代勢氏宛の1枚のみ)

(さて)、この感謝状で注目す可(べ)き事は二つ。先ず一つ目は、尖閣諸島に対する表記です。感謝状の中で尖閣諸島をこの様に表記しています。

日本帝國沖繩縣八重山郡尖閣列島

そして、二つ目は、この感謝状の贈り主です。感謝状には、

中華民國駐長崎領事 馮冕

と書かれ、名前の下には「華駐長崎領事」、「中華民國九年五月二十日」の日付の上には「中華民国駐長崎領事印」の公印がそれぞれ押印されている事実です。詰まり、この感謝状は馮冕氏が私的に贈ったものでは無く、中華民国駐長崎領事の名に於いて中華民国を代表して贈られた公的な物だったと言う事です。そして、その公的な感謝状に、尖閣諸島をして「日本帝國沖繩縣八重山郡尖閣列島」と表記している事実。これは、当時の中華民国が「尖閣諸島の領有権は日本に帰属している」と言う事を暗黙裏に諒解していた事を如実に物語る動かぬ証拠でもあるのです。

り返しますが、尖閣諸島の領有権は日本に帰属しています。然し、現在、「中国」と台湾もそれぞれ領有権を主張しています。現在の「中国」 ── 中華人民共和国 ── は、戦後の国共内戦に於いて蒋介石の「中華民国」に勝利して建国されたものです。その「中国」が「中華民国」の後継国家なのか、それとも前国家との間に明確な断絶があるのか? 若(も)し、現在の「中国」が「中華民国」の後継国家であるのならば、中華民国時代に贈られた感謝状に尖閣諸島をして「日本帝國沖繩縣八重山郡尖閣列島」との表記がある以上、日本の領有権を認めざるを得ない筈です。何故(なぜ)なら、この部分に付いては踏襲する、この部分に付いては踏襲しない、と言った態度では、正統な後継国家足(た)り得ないからです。又、李登輝(リー-テンフイ)・陳水扁政権時代を通じて進められてきた「正名独立」政策を破棄し、「中華民国」を前面に押し出している馬英九政権ですが、馬政権が台湾の「台湾化」を後退させ、「中華民国化」を進めれば進める程、嘗(かつ)ての中華民国が贈った感謝状に記載されている「日本帝國沖繩縣八重山郡尖閣列島」の表記も効力を増す事になるのです。

英九氏は、自らを「中華民国総統」であるとして、台湾の「中華民国化」を推進しています。その中華民国が嘗て日本国民に贈った感謝状に、自らが「領有権は中華民国に帰属する」としている尖閣諸島を「日本帝國沖繩縣八重山郡尖閣列島」と表記している事実。馬総統は、尖閣諸島の領有権問題を解決する為に、「日本との一戦も辞さず!!」との主張をした「前科」がありますが、一戦交える ── 戦争をする ── のには、古今東西何らかの「大義名分」が必要となります。その大義名分が馬総統率いる中華民国国民党政権にはあるのか? その事をこの感謝状をじっくりと眺め、そして、噛み締めた上で、冷静に考える可きでは無いのか? そう私は、中華民国総統・馬英九氏に強く求めたいと思うのです。(了)


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関連小論及び資料
  1. 「お宝」目当ての領有権主張 ── 尖閣諸島問題(2001.10.7)
  2. -2 竹島、尖閣列島は日本固有の領土(『日本の息吹』平成8年3月号より)(2003.6.7)
  3. -3 東シナ海を監視する空の防人 哨戒機P3C搭乗ルポ ── 海上自衛隊第5航空群(『Weekly Okinawa』Vol.105より)(2003.6.7)


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