Reconsideration of the History
100.台湾は「日本の生命線」 ── 「台湾問題」の向こう側にある「もの」(2002.3.7)

前のページ 次のページ


回のコラム『99.「チベット17ヶ条協定」に見る「一国両制」の欺瞞』の最後を、私はこう締め括りました。

台湾国民には、過去、チベットを舞台に行われた「一国両制」の結末に充分目を向け「賢明な判断」をしてもらいたい、と友邦の隣人として助言したいと思います。と同時に日本も、「チベット問題」・「台湾問題」を縁遠い自分達には関係の無い問題として片付けず、より身近な問題として ── 「チベット問題」・「台湾問題」の向こう側にある「もの」に、目を向けてもらいたいと思うのです。
では、その向こう側にある「もの」とは一体何なのか? そして、その「もの」が日本にどの様に関わってくるのか? 今回は、その「もの」について書いてみたいと思います。

然ですが、皆さんは「中国」(支那)の範囲(領土)をご存じでしょうか? 手元に世界地図をお持ちの方は、東アジア地域の地図をご覧になれば一目瞭然だと思いますが、それはあくまでも「一般的な認識」による「中国」の範囲でしかないのです。では、「一般的では無い」範囲とは一体どの様なものなのか? おそらく、100人中99人が驚かれると思いますが、「中国」自身が考えている、「本来あるべき中国の範囲」(潜在的中国領)とは、何と以下の様になるのです。

「中国」が本来、自国領と考えている地域
(1953年度北京政府発行国定教科書『現代中国簡史』に基づく)
  1. 「中国」(満州・内モンゴル・ウイグル・チベット・東カシミール(アクサイチン地区)の占領地域を含む)
  2. 台湾(現在、「中華民国」の施政権が及んでいる地域)
  3. 朝鮮半島(韓国・北朝鮮)
  4. ロシア極東地域(沿海州・樺太)
  5. 外モンゴル(モンゴル国・ロシア領ブリヤート)
  6. 西トルキスタン(カザフスタン領・キルギス領の一部)
  7. 東南アジア(ベトナム・ラオス・カンボジア・タイ・ミャンマー・マレーシア・シンガポール)
  8. 南シナ海島嶼群(南沙諸島・西沙諸島)
  9. 旧英印領地域(インド領シッキム・バングラデシュ・ブータン・ネパール領の一部)
これをご覧になられた方はどの様な感想をお持ちになるでしょうか? 現在、支那と東南アジア諸国が、領有権で係争中の南沙(スプラトリー)諸島や西沙(パラセル)諸島どころの話ではありません。支那の領土観に従えば、フィリピン・インドネシア(旧蘭印領)・東ティモール(旧ポルトガル領)・東マレーシア(カリマンタン島北西部のマレーシア領サバ州・サラワク州)・ブルネイ以外 ── つまり、支那と陸続きになっている東南アジア地域は全て「中国領」となってしまうのです。そして、現在の「中国」領以外の「潜在的中国領」は、現在の「中国」領に匹敵する程、広大なのです。と、ここ迄は、海を隔てた「他国の話」であって、自分達には直接関係無いと考えておられた方もおありでしょう。しかし、上記の表には「潜在的中国領」とされる地域の全てを記載した訳ではありません。実は、これにはまだ続きがあるのです。では、その続き ── 記載しなかった「潜在的中国領」とは具体的に何処(どこ)を指すのか?

那が「潜在的中国領」と考えている地域に敢えて書かなかった地域、それは何と驚く事に、

沖縄

だったのです。いや、より正確には、日台支三国で領有権を係争中の尖閣諸島(詳しくは、コラム『94.「お宝」目当ての領有権主張 ── 尖閣諸島問題』を参照)を含む琉球諸島全域(沖縄県)・奄美諸島(鹿児島県)・対馬(長崎県)と言った地域なのです。これらの地域は、今更言う迄もありませんが、日本国の施政権が及んでいるれっきとした「日本の領土」です。その「日本の領土」迄も、本来あるべき「中国領」と支那は考えているのです。最早、到底笑って済ます事の出来る話ではありません。

那が何故、沖縄を「潜在的中国領」と考えているのか? それは、かつて沖縄が「琉球国」と呼ばれていた頃 ── れっきとした「独立国」だった頃に迄遡ります。(コラム『42.琉球独立!! 「沖縄基地問題」に対する処方箋』を参照) 沖縄が「琉球国」だった時代、琉球は支那(明国及び後継の清朝に朝貢し、琉球国王は支那の皇帝によって冊封されていました。つまり、支那から見れば、琉球は支那の「属国」あるいは「属領」であり、単に「自治権」を与えていたに過ぎないと言う訳です。しかし、琉球は1609年以降、薩摩藩によって王国体制を維持した形での支配を受ける様になり(島津支配)、これ以後、琉球は日両国に朝貢する ── つまり、日本と清朝と言う二つの「宗主国」から支配を受ける事となったのです。その後、明治維新後の日本によって1871年に保護国化され、1879年、遂に王国は解体、日本に編入され「沖縄県」となったのです。しかし、支那はかつての「宗主国」として、琉球が沖縄と名を変え、日本領となった現在も「自国領」との認識を捨ててはいないのです。

て、話が随分と遠回りしてしまいました。そろそろ、冒頭で提示した「台湾問題」の向こう側にある「もの」について書きましょう。支那は現在も、台湾を「中国の絶対不可分な神聖なる固有領土」と称して、台湾の「独立」(「中華民国」の国号を廃止し、「台湾共和国」と言った国号を採用する)を頑(かたく)なに認めようとはしていません。現実には、北京政府の施政権が及んではおらず、民主的な手法で選出された国家元首「総統」の下、「独立主権国家」としてのシステムを完備しているにも関わらずです。そこには台湾国民の意向に関係無く、台湾が「中国領」であると言う独善的な価値観が働いており、台湾が「独立」等しようものなら、それこそ、軍事力を使って「力でねじ伏せ」るだけだ、と言う論理しか無い訳です。この様に支那が独善的な「帝国主義国家」である以上、「台湾問題」の向こう側にある「もの」も必然的に見えてきます。

湾の後は、沖縄。もし、台湾が何らかの形で支那に「併合」(「中国」の論理では「祖国復帰」)される様な事態となれば、その次に来る「もの」は、間違い無く、「沖縄の併合」でしょう。現在、日本の排他的経済水域内において、日本側による再三の抗議等嘲笑(あざわら)うかの様に、艦船を繰り出しては海洋資源調査を行っている支那の事です。度々、海軍艦艇をして、東シナ海の日本領海を侵犯させている支那の事です。1990年、ベトナムの隙を衝いて、領有権係争中の西沙諸島の一つ、ウッディー島を軍事占領し飛行場を建設、多数の軍用機と軍隊を常駐させ要塞化した支那の事です。台湾が「陥落」(支那への併合)すれば、支那は当然、公然と領有権を主張している尖閣諸島は勿論の事、「潜在的中国領」と考えている沖縄(南西諸島)についても、その魔手を伸ばして来る事は自明の理です。そして、それは、単に沖縄だけの問題では無いのです。

「台湾問題」とは、取りも直さず「日本の問題」として捉えるべきです。日本は中東諸国から石油を買い、タンカーを使って海上輸送しています。いや、石油ばかりでは無く、多くの物資が海上輸送されています。そのルートは、中東・インド洋・マラッカ海峡・南シナ海・東シナ海を経て、日本に到達します。そして、このルートは一般に(日本における)「シーレーン」と呼ばれています。

シーレーン 【sea lane】

英語で「海上交通路」の意。国家がその存立の為に、他国によって脅かされてはならないと見る海上の交通路。

このシーレーン上に、台湾と沖縄は位置しており、双方共に、日本と東・南シナ海を結ぶシーレーンの要衝と言う訳です。そのシーレーン上の要衝である台湾が支那によって「陥落」すると言う事は、取りも直さず、日本のシーレーンが支那に押さえられてしまう事を意味します。であればこそ、日本は台湾を「日本の生命線」と認識し、「日中国交正常化」に伴い断絶したままの国交関係を回復し、台湾とより密接な関係を構築すべきでは無いかと思うのです。


   余談(つれづれ)

那は沖縄(琉球)が、かつて自国に「朝貢」していた歴史を根拠に、「潜在的中国領」と考えています。とすれば、この様な論理も成り立つ事になってしまうのです。すなわち、

日本は、「邪馬台(臺)国」(正確には「邪馬壹国」)の時代から「倭の五王」の時代にかけて、「倭国」の名で支那に「朝貢」していたと(支那の)史書に記述されている。かつて、日本が我国に「朝貢」していた歴史がある以上、日本も「潜在的中国領」であり、日本は「中華人民共和国の祖国の大家族」の中に戻らねばならない
と。皆さんの中には、「そんな馬鹿な!!」と思われる方もおありでしょう。しかし、先述した「潜在的中国領」の範囲を考えると、冗談では済まされない「現実味」があるのです。現在、この様な主張を支那はしていませんが、もし、実際にこの様な荒唐無稽な論理を支那が振りかざして来たとしたら、皆さんは認める事が出来るでしょうか? 当然の事ながら反発を覚える事と思います。しかし、支那が現実にこの様な論理を振りかざして、台湾や南沙・西沙・尖閣諸島に臨んでいる事を考えると、我々は支那に対して、その動向を注視すると共に、より毅然とした態度で臨まねばならないとは言えないでしょうか?


補足情報


前のページ 次のページ