Reconsideration of the History
179.日本4島、ロシア2島、間を取って折半? ── 「北方領土」等分ならこれを起点とすべし(下) (2007.1.21)

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(承前)

ころで、

『サンフランシスコ平和条約』に、日本が千島列島と南樺太に対する領有権を放棄する旨(むね)(うた)われている以上、今更(いまさら)、日本が同地域に対する領有権の主張を持ち出す事等出来るのか?」

と、思われる方もおありの事でしょう。確かに、理屈の上では無理でしょう。又、1956年12月12日に批准書が交換され発効した『日ソ共同宣言』(日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言)の第9項

日ソ共同宣言(抜粋)

9【平和条約・領土】
  1.  日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。
     ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。

に拘束され、日本は歯舞・色丹の2島に対する返還しか主張出来ないのでは? と思われる方もおありの事でしょう。然(しか)し、日本は馬鹿正直に、『サンフランシスコ平和条約』『日ソ共同宣言』の文言に縛られる必要は無い。私はそう考えています。それは、何故(なぜ)なのか?

えば、旧ソ連(露国)は、今でこそ、「北方領土」交渉に於いて、『日ソ共同宣言』を根拠に、「返還対象は歯舞・色丹の2島に限られる」等と主張していますが、昭和35(1960)年6月23日、『日米安保条約』(旧条約)が改定されると新条約、態度を硬化させ、旧ソ連自らが調印・批准した『日ソ共同宣言』に謳われている歯舞・色丹2島返還を撤回。抑(そもそ)も、日ソ両国間に「領土問題」自体が存在しないと言う態度を取りました。いや、それ以前に、旧ソ連は、昭和20(1945)年4月5日に条約不延長を通告してきたとは言え、昭和21年4月迄は有効だった『日ソ中立条約』を、満了日の8ヶ月も前の昭和20年8月8日、一方的に破棄して日本に宣戦布告してきました。更に遡(さかの)れば、日本が旧ソ連の軍事侵攻 ── 詰まりは「侵略」── によって占領奪取された千島列島と南樺太は、抑も、安政元(1855)年の『日露通好条約』(北方四島に対する日本の領有権確認)、明治8(1875)年の『千島・樺太交換条約』(千島全島の領有権取得)、そして、明治38(1905)年の『ポーツマス条約』(日露講和条約:南樺太の領有権取得)と言う三つの条約によって、日本が合法的に取得した正当な領土であり、何(いず)れの条約も締結相手はロシア帝国(旧ソ連の前身)です。詰まり、旧ソ連にしろ露国にしろ、何れも、自らが締結した条約を一方的に反古(ほご)にした上で、自分達に都合の良い様にねじ曲げている訳です。それに対して、日本は馬鹿正直に、露国が主張する様な『日ソ共同宣言』の2島返還条項に縛られて4島返還を主張出来ないのか? 『サンフランシスコ平和条約』に縛られて、千島・南樺太に対する領有権を主張出来ないのか? 決してそんな事は無いのです。

も、条約を破棄し、取り決めた事を捻曲(ねじま)げたのは露国の側です。決して日本側ではありません。現に、英蘭系石油資本のロイヤル-ダッチ-シェルと日本の三井物産・三菱商事の3社が経営権を合法的に取得し、開発が進められていた樺太沖の石油・天然ガス開発事業、通称「サハリン2」に対して、露国は「環境問題」を口実に難癖(なんくせ)を付け、最終的に国営天然ガス独占企業体「ガスプロム」への3社の有する経営権の譲渡を無理矢理呑ませたニュースは、皆さんの記憶にも新しい所でしょう。詰まり、露国の体質は半世紀前の旧ソ連時代と何ら変わってはいません。目的を達成する為ならば、手段は選ばない。例え、それが背信的行為だったとしても、何ら厭(いと)わないし、恥じる事も無い。その様な露国を「見習う」訳ではありませんが、日本も馬鹿正直でいるだけが能ではありません。先述の『サンフランシスコ平和条約』第2条には確かに、

サンフランシスコ平和条約(抜粋)

第二条【領土権の放棄】
  1. 日本国は、千島列島並びに日本国が千九百五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太(からふと)の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

と謳われてはいます。然し、同時に、日本が千島・南樺太に対する領有権を、二度と主張してはならない、等とは一言も明記されてはいません。又、国際法上、千島・南樺太の領有権が未確定である以上、同地域に対する領有権を日本が改めて(新規に)主張する事を阻む決定的な根拠もありません。ならば、日本は、歯舞・色丹の2島や、それに国後・択捉を加えた4島の返還に留まらず(詰まり、自ら「4島返還」と言う枠を填めない)、得撫(うるっぷ)島以北の北千島や南樺太に対する領有権主張 ── 露国に対する返還要求 ── を突き付ける可(べ)きなのです。

(さて)、前回の小論で、麻生外相が口にした「北方領土の日露による等分割」案を紹介し、実現すれば、「北方領土」総面積 5,034Km2の半分の 2,517Km2 ── 歯舞・色丹・国後の3島と、残る択捉の5分の1が日本側に返還される計算となる、と指摘しました。然し、此処から一歩進めて、「等分割」する対象を、歯舞・色丹・国後・択捉の4島に限定せず、日本が「改めて」領有権を主張する(実際に主張して貰いたい)北千島・南樺太を含む総面積 46,443Km2 とし、その半分の 23,221Km2の返還を要求する。すると、日本側への返還対象地域は、千島全島と南樺太の約3分の1となるのです。この様な「大風呂敷」を広げた上で、露国に対して返還要求を突き付ける。結果的には、歯舞・色丹・国後・択捉の4島返還で決着するかも知れません。然し、最初からハードルを下げておいて、何も取れないよりは余程マシです。4島返還か、2島返還か、はたまた等分割かで解決策を模索している「北方領土」問題。「サハリン2」に見られた露国の「ごり押し」と迄は言わない迄も、日本も露国に対しては、多少強引な手法、主張をす可きですし、日本の国益の為には、様々な蘊蓄(うんちく)を並べて、「解釈の為の解釈」を繰り返している『日本国憲法』同様に、日本を縛ってきた各種条約に対する「解釈の変更」(新解釈)を臭わせる位の事は、相手に対して、すべきと言えるでしょう。

(千島列島・樺太の面積に付いては、資料によって数字に違いが見られる。前掲の数字も、その一つではあるが、具体的な出典は割愛する。)


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