Reconsideration of the History
11.真の首謀者は誰だ!? 「大化改新」秘史-其の弐- (1997.6.8)

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て、蘇我入鹿を通して、大化改新の「真の原因」は明らかになりました。しかし、謎はもう一つ残っているのです。大化改新の「真の首謀者」すなわち「主犯」は誰だったのか?と言う事です。

化改新の登場人物を眺めてみると、暗殺された蘇我入鹿(被害者)、暗殺を実行した中大兄皇子(後の天智天皇)・中臣鎌子(後の藤原鎌足)・蘇我倉山田石川麻呂ら(暗殺実行犯)の他に、もう一人重要な人物が登場します。それは軽皇子(後の孝徳天皇)です。

く劇画等では大化改新の入鹿暗殺の場面を、颯爽と登場した中大兄皇子が悪名高い蘇我入鹿を鮮やかに暗殺する、と言った感じで描いています。しかし、実際には中大兄皇子も、中臣鎌子も、そして、蘇我倉山田石川麻呂も、皆震えが止まらず、なかなか暗殺できなかったようです。 つまりは暗殺実行犯の面々は皆肝が小さい連中だったと言う事で、時の権力者蘇我入鹿と言う大人物を、よりにもよって宮中の太極殿で、入鹿の愛人である皇極天皇の面前で暗殺する等と言う大それた事を計画実行出来る器ではなかったのです。しかし、彼らは暗殺を実行しました。それには、事後処理において、自分達の身の安全が完全に保障されていなければなりません。又、暗殺段階でさえ、及び腰だった実行犯の面々が、蘇我氏の本家をも滅ぼす等、作戦はあまりにも電撃的で鮮やかでした。ここで、考えたのは、実行犯と計画犯(首謀者)は別ではなかったかと言う事です。そんな中浮かび上がった人物が、軽皇子だったのです。

化改新後、蘇我入鹿の愛人であった皇極天皇は政変の翌々日に退位しました。本来ならば、大化改新の最大の立て役者・中大兄皇子が即位する筈でした。何と言っても、政変の実行犯ですし、皇極天皇の子なのですから。しかし、ここで即位したのは、中大兄皇子ではなく、皇極天皇の弟で、中大兄皇子の叔父に当たる軽皇子でした。そこで、浮かんだのは、大化改新の計画犯つまり「真の首謀者」軽皇子ではなかったかと言う事です。

皇子はなぜ大化改新の僅か2日後と言う直後に、何の功労も無いのに、大化改新の最大の立て役者・中大兄皇子を差し置いて即位できたのか? これは今まで大いに謎でした。正にダークホースです。しかし、もし、彼が中大兄皇子らに計画を吹き込んで、周到な準備をさせ、裏で作戦を指揮していたとしたら、どうでしょう。政変直後に即位出来た事も納得がいくのです。しかし、中大兄皇子がそう簡単に皇位と言うニンジンを放棄するでしょうか? いや、これがあり得るのです。それは、中大兄皇子の母・皇極天皇の処遇についてです。皇極天皇は蘇我入鹿と愛人関係にあった・・・つまり天皇家のプリンス達からは、いわば「裏切り者」とも言えます。蘇我入鹿が暗殺された際、本来なら当然連座して暗殺された筈です。しかし、皇極天皇は退位しただけで、何のお咎めもありませんでした。これは皇極天皇の子である中大兄皇子にとってみれば、最大の安心材料です。更に、自ら、皇太子になれるのですから、次代の皇位を約束されたようなもので、こんな好条件を飲まない筈がありません。

に、軽皇子が首謀者ではなかったかと言う理由の一つに「遷都」が挙げられます。軽皇子が即位し、孝徳天皇となった際、飛鳥の都(奈良県)をあっさりと棄て、難波長柄豊碕宮(大阪府)に遷都した事実です。なぜ、遷都しなければならなかったのか? 先ず考えられるのは、大化改新を完全な物とするために新都で政権を刷新した。次に考えられるのは、飛鳥の都では最早、首都として機能させるには不具合であったから。この両者共に、インパクトに欠けます。前者は現在の「首都機能移転問題」でもそうですが、莫大な財政支出を要します。いくら政権を刷新するからと言っても、あまりにも負担がかかります。後者は、孝徳天皇の死後、都が再び飛鳥の地に戻された事から、説得力に欠けます。そこで、第三の理由が浮かんだのです。

の理由とは、政権の刷新でもなければ、首都機能問題でもありません。大化改新と孝徳天皇自体にあったのです。もし、孝徳天皇が大化改新の「真の首謀者」であったとしたら、自らが滅ぼした「蘇我氏の都」に居続けるでしょうか? 確かに、蘇我氏の本家は滅亡しました。しかし、倉山田石川麻呂に代表される蘇我氏の傍流(分家)は今だ健在なのです。この傍流蘇我氏がいつ勢力を蓄え、第二・第三の入鹿を輩出するか分かりません。又、蘇我氏本家が滅亡した際に、「失業」した家臣団が、いつ、自分の寝首をかきにくるとも知れません。そんな不安だらけの「呪われた都」に居続けるでしょうか? そう考えてこそ、「難波遷都」の理由がつくのです。そして、それこそ、孝徳天皇が、「大化改新の真の首謀者は私だ」と言っている様なものなのです。


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