Commentary of the History
94-3.東シナ海を監視する空の防人 哨戒機P3C搭乗ルポ ── 海上自衛隊第5航空群(『Weekly Okinawa』Vol.105より)(2003.6.7)

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ウィークリー・O・K・I・N・A・W・A
−本土に伝わらない沖縄の真実−

2003.5.20 Vol.105

■ 東シナ海を監視する空の防人 哨戒機P3C搭乗ルポ ── 海上自衛隊第5航空群

朝鮮情勢が緊迫化する一方、中国は今年に入って、海軍の艦艇や調査船による調査活動を活発化させ、不穏な動きを見せている。先月、沖縄の海上自衛隊第5航空群の対潜哨戒機P3Cに体験搭乗、同群の監視ぶりをリポートする。

(那覇支局・竹林春夫)


■ 懸案の尖閣諸島・EEZ問題 ■ 中国調査船が不穏な動き

「詳しいことは申し上げられませんが、最近、中国の調査船および艦艇の活動範囲が微妙な変化を見せています」

P3Cの体験搭乗を前にブリーフィングした第5航空群司令部首席幕僚の畑中裕生・一等海佐は声を潜めた。

5航空群の主要な任務は、警戒・監視と災害派遣。監視エリアの中で特に重要なのが、東シナ海および沖縄沿海だ。この海域では現在、

  1. 日本と中国の排他的経済水域(EEZ)境界画定問題
  2. 尖閣諸島の領有権問題

――の二つが懸案事項になっている。

 排他的経済水域とは、天然資源や経済的活動に関して排他的管轄権を持つ海域のこと。日本の国土は、約38万平方Kmで世界第59位だが、領海とEEZを合わせると約447万平方Kmで世界第6位となる。それだけに、EEZの防衛は自衛隊の重要な任務である。

 ブリーフィングが終わった後、体験搭乗する記者団は3班に分かれ、それぞれ6、7人ずつ乗り込んだ。搭乗したP3Cは、敵潜水艦をレーダーや赤外線で探知し、魚雷で攻撃する機能を備える。

「間もなく離陸しますので、シートベルトをしっかりと着けてください」

搭乗した隊員の一人が丁寧に案内してくれた。自衛隊員の礼儀と規律正しさを目の当たりにして、民間機とはひと味違った心地よさを感じた。

 「ゴーッ」という音とともに、P3Cが飛び立った。ほとんどの記者は体験搭乗が初めて。それぞれ窓際から外を眺めながら、これからの飛行に期待を膨らませている様子だった。

 離陸して十分ほどすると、機内を自由に動くことができた。どうせならと、コックピット(操縦室)に行くことにした。

「どうぞ、どうぞ。きょうは南から台風が来ていますから、飛行時間が少し長くなりますが、順調にいけばいいですね」

 この日の機長である福島博・二等海佐が笑顔で応えてくれた。コックピットでは、福島機長と副機長の佐藤潤・一等海尉、それにフライト・エンジニア(機上整備員)の多良間直貴・三等海曹の3人が無数に並んだ計器に目をやり、操作している。時折、後方にいるレーダー担当官から情報を得ては、メモを取り、対話を交わす。

 機内にはこのほか、ナビゲーター、レーダー担当ら5人が搭乗。コックピットから機長たちの動きを見ていると、任務に励む自衛隊員たちの緊張した空気が伝わってくる。

 離陸後50分ぐらいすると、尖閣諸島の中で沖縄本島に最も近い大正島(赤尾嶼=しょ)が見えてきた。海上約60mのところを「ブーン」という音とともに時速約500Kmで飛行。赤尾嶼は岩でできた無人島で、白い鳥がかすかに見えた。

 さらに西に約100キロほど進むと、北小島、南小島を越え、尖閣諸島で最も大きい魚釣島が視界に入ってきた。P3Cは魚釣島上空を三回ほど旋回し、同島西岸には政治結社・日本青年社が建てた灯台やかつてのかつお節工場、船着き場の跡がはっきりと分かった。この島を開拓した古賀辰四郎氏はじめ、日本人が住んでいたのだ。

 今年1月、日本政府が魚釣島、南小島、北小島の三島について、年間2,256万円で土地所有者と賃貸契約を結んでいたことが明らかになった。

 P3Cは、魚釣島から北東約30Kmにある久場島(黄尾嶼)を越えて日中中間線沿いに北上し、中国が建てた「平湖油田」に向かった。

 日本と中国は、EEZの境界線をめぐり対立している。日本側は日中中間線で既に確定していると主張しているのに対し、中国側は沖縄トラフ(沖縄の東側に南北に横たわるくぼみ)を境界線だと主張している。

 第5航空群は、1990年代半ばごろから多数の中国調査船が日中中間線を越えて横行しているのを監視している。2001年7月13日には中国船「科学1号」が沖縄トラフ東端線を越えた。これを受け、日本政府は同月24日にベトナムで開かれた日中外相会談で事前通報制度と合致しない調査活動をしないよう中国側に申し入れた経緯がある。

「あれが平湖油田ですよ」

と機長が指さした。間もなくすると、パイプの先からオレンジ色の炎を出している鉄骨のやぐらが見えてきた。近くに中国の巡視艇が見える。中国は1999年、日中中間線付近に平湖油田を建設し、パイプラインを通して天然ガスを上海に送っている。

 第5航空群は、毎日少なくとも1回はP3Cで東シナ海を監視、警戒している。この日体験搭乗した機は約四時間の飛行を終えて那覇基地に無事着陸した。

「監視範囲が広がって大変ですね」

と最近加重している監視体制の様子を尋ねると、

「国の安全と国民の生活を守るのがわれわれの任務ですから」

と福島機長。背筋が正される思いがした。

http://www.worldtimes.co.jp/j/okinawa/kr030518.html


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