Reconsideration of the History
206.「言葉」に拘るマスコミに対する疑念 ── 何故、皇族に正しい敬称を用いないのか? (2009.3.25)

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(いなか)、片手落ち、植物人間、満州、未亡人、名門校 ── 皆さんは、これらの単語が放送局や新聞社等「マスコミ」が自主規制している、所謂(いわゆる)「放送禁止用語」である事をご存じだったでしょうか? 実は私自身、本小論を書く段になる迄、知りませんでした。何しろ、私自身が「田舎」で暮らしていますから、その「田舎」が放送禁止用語だ等とは言われてもピンときませんし、何故(なぜ)、「田舎」を放送禁止用語に選定したのか理解に苦しみます。逆に、これは「田舎」に対する逆差別ではないのか!!とさえ言いたくなります。とは言え、今回はこの事を突き詰めて論じる訳では無いので、先に進む事にしますが、皆さんにはマスコミが事程左様(ことほどさよう)に「言葉」に対して神経質になっている、その事を先(ま)ずご理解頂きたいと思います。

(さて)、本題に入る前に、皆さんには今暫(しばら)くお時間を頂いて、以下の新聞記事をお読み頂きたいと思います。

女性天皇容認68%に減少 世論調査 悠仁さま誕生影響か

2009年3月22日 山梨日日新聞

 山梨日日新聞社加盟の日本世論調査会は7、8日の両日、面接方式による全国世論調査を実施し、皇位継承や即位20年となった天皇、皇后両陛下の公務の在り方などについて国民の意識を探った。

 今回、女性天皇を容認する意見は68%で、前回2005年10月調査の84%から16ポイント低下。近年、容認派は増加傾向が続き、特に皇太子家に長女愛子さまが生まれてからは2003年6月76%、2005年3月81%、2005年6月82%と高水準を維持していたが、減少に転じた。逆に「男子に限るべきだ」とする意見は過去3回の5-6%から14%に増えた。

 前回調査後の2006年9月に秋篠宮家の長男悠仁さまが誕生したことが、意識の変化に影響しているとみられる。

 一方、皇室典範を改正して女性天皇を認めた場合の皇位継承順位は「第一子からとすべきだ」が45%、「男子を先にすべきだ」が32%となった。第一子優先と答えた人の理由は「男女は平等だから」が53%と過半数を占め、男子優先とした人は「皇室の伝統だから」の46%が最多だった。

 皇室に「大いに関心がある」「ある程度関心がある」は合わせて56%と半数を超えたが、「あまり関心がない」「全く関心がない」の無関心層も43%あり、2005年6月、2003年6月の34-35%から増加。特に20代では72%に達し、若い人たちに皇室離れが進んでいる実態があらためて浮き彫りになった。

 天皇陛下の即位後20年間の活動が憲法が定める象徴天皇にふさわしいかどうかを尋ねた結果、計81%が「そう思う」「ある程度そう思う」と肯定的に回答。理由を聞くと「国民とのふれあいを大切にしているから」が40%、「外国との友好親善に努めているから」が34%だった。ふさわしいと思わないと答えた人は15%で「親しみがわかないから」が60%だった。

 皇太子ご夫妻に期待することを二つまで選択する設問では「天皇、皇后両陛下の負担軽減のための公務分担」が54%、「雅子さまのキャリアを生かした国際親善」43%−などの順だった。

 両陛下の負担軽減策を二つまで選んでもらったところ「国体や植樹祭などでの国内各地の訪問」が50%でトップだった。

 皇室報道で敬語を使うこと対してママ「過度にならない程度に使う」が76%で、「できる限り手厚く」の15%を含め大半の人が容認した。 (小数点第一位を四捨五入した)

この世論調査記事中、朱書きの部分が皇族方の呼称である訳ですが、何故、私が朱書きにしたのか、皆さんはピンと来ないかも知れません。然(しか)し、これはハッキリ言って「間違っている」のです。

「天皇陛下」、「天皇皇后両陛下」と言う呼称は皆さんも耳目(じもく)に触れた事がおありの事と思いますが、これが皇后(以下、本小論の文脈上、敬称を略す場合あり)単独となると「皇后さま」になってしまうのです。天皇とペアで呼称される時は「陛下」なのに、何故、皇后単独では「さま」になってしまうのか? いや、天皇以外の皇族方は、皇太子家の徳仁(なるひと)親王が「皇太子さま」、雅子親王妃が「雅子さま」、愛子内親王が「愛子さま」、秋篠宮家の文仁親王が「秋篠宮さま」、紀子親王妃が「紀子さま」、そして、皇位継承権を有する最も若い皇族である悠仁(ひさひと)親王も「悠仁さま」、と全て「さま」を以(もっ)て呼称されています。そして、これは「公共放送」(事実上の国営放送局)であるNHK(日本放送協会)を筆頭に、ほぼ全ての放送局及び新聞社に広く行き渡っている皇族方に対する呼称のルール(暗黙の了解)なのです。然し、私はこのルールに異を唱えざるを得ません。何故なら、「言葉」に対し神経質なマスコミなら尚の事ですが、これはとてつも無い間違いだからです。

皇陛下以下皇族に関する諸事を定めた法律があります。その名を『皇室典範(てんぱん)と言います。明治時代制定の正統憲法(『大日本帝國憲法』)と同格の最高法典であった旧『皇室典範』を、昭和22(1947)年に改正、一般の法律として「格下げ」されたものが現行の『皇室典範』である訳ですが、その『皇室典範』の第23条には以下の様な文言(もんごん)が謳(うた)われています。

     『皇室典範』
第23条 天皇、皇后、太皇太后及び皇太后の敬称は、陛下とする。
 第2項 前項の皇族以外の皇族の敬称は、殿下とする。

詰まり、天皇を「天皇陛下」と呼称するのは当然の事として、皇后も「皇后さま」では無く「皇后陛下」と呼称するのが正しい訳です。いや、そればかりか、皇太子は「皇太子殿下」、雅子親王妃は「雅子妃殿下」、愛子内親王は「愛子内親王殿下」、悠仁親王も「悠仁親王殿下」と呼称す可(べ)きである訳です。それをマスコミは自らが勝手に決めた歪(ひず)んだルール=報道用語により、「陛下」及び「殿下」の敬称を「さま」にしてしまいました。これは、『皇室典範』に罰則規定が無い為に処罰こそされないものの、明らかな「法律違反」行為と言えるものです。各種法令を遵守し、厳格且つ公正な報道を要求される筈のマスコミが前述の如く法律違反を犯しているのもさる事乍(なが)ら、実は皇族(王族)に対する敬称に付いて、マスコミには「二重基準」(デュアル・スタンダード)共言えるものが見受けられるのです。

天皇陛下を除き、マスコミの皇族方に対する呼称は全て間違っている
マスコミ側呼称 本来ある可き正しい呼称 マスコミ側呼称 本来ある可き正しい呼称
天皇陛下 天皇陛下(今上陛下) 三笠宮崇仁さま 三笠宮崇仁親王殿下(三笠宮殿下)
皇后さま 皇后陛下 三笠宮妃百合子さま 三笠宮妃百合子殿下(三笠宮妃殿下)
皇太子さま 皇太子徳仁親王殿下(皇太子殿下) 三笠宮ェ仁さま ェ仁親王殿下
皇太子妃雅子さま 皇太子妃雅子殿下(皇太子妃殿下) 三笠宮妃信子さま ェ仁親王妃信子殿下
愛子さま 愛子内親王殿下 (三笠宮)彬子さま 彬子女王殿下
秋篠宮さま 秋篠宮文仁親王殿下(秋篠宮殿下) (三笠宮)瑶子さま 瑶子女王殿下
秋篠宮妃紀子さま 秋篠宮妃紀子殿下(秋篠宮妃殿下) 桂宮さま 桂宮宜仁親王殿下
(秋篠宮)眞子さま 眞子内親王殿下 高円宮さま(故人) 高円宮憲仁親王殿下(高円宮殿下)
(秋篠宮)佳子さま 佳子内親王殿下 高円宮妃久子さま 高円宮憲仁親王妃久子殿下(高円宮妃殿下)
(秋篠宮)悠仁さま 悠仁親王殿下 (高円宮)承子さま 承子女王殿下
常陸宮さま 常陸宮正仁親王殿下(常陸宮殿下) (高円宮)典子さま 典子女王殿下
常陸宮妃華子さま 常陸宮妃華子殿下(常陸宮妃殿下) (高円宮)絢子承子さま 絢子女王殿下

エリザベス二世英国女王夫妻在の英国王は皆さんご存じのエリザベス2世女王です。そして、女王には自らのお腹を痛めたチャールズと言う皇太子が居(い)ます。何を今更、当たり前の事をと言われそうですが、女王がチャールズ皇太子を産んだと言う事は、「お相手」 ── 詰まり、夫君が居る訳です。その名をフィリップ=マウントバッテン・エヂンバラ公爵と言います。扨、この夫君の事を日本のマスコミはどの様に呼称したのかが問題です。実は、夫君の事を「エヂンバラ公フィリップ殿下」、「王配殿下」等と言った様に「殿下」の敬称を付してマスコミは報道したのです。(厳密に言えば、英国王に対する敬称は「陛下」であるので、その夫君に対しても「殿下」では無く「陛下」と呼称するのが正しい) それでは、次の事例は如何(いかが)でしょう。
(左写真:エリザベス2世英国女王と夫君エヂンバラ公爵)

ンボジアの内戦時代(1970年10月-1991年10月)、首都プノムペンを掌握していたフン=セン首相率いる親越(ベトナム)ヘン=サムリン政権に対し、同政権打倒を旗印に結成された、ポル=ポト派(クメール-ルージュ)・シハヌーク派・ソン=サン派による三派連合政府の首班の名を皆さんは今も憶(おぼ)えておられるでしょうか? その後、1991(平成3)年の和平成立に伴ってカンボジア国王に復位したノロドム=シハヌーク氏(カンボジア国王:1941-1955,称制:1960-1970 民主カンプチア国家元首:1975-1976 民主カンプチア三派連合政府大統領:1982-1991 カンボジア国王:1993-2004)。日本のマスコミは内戦時代、彼の事を「シアヌーク殿下」と「殿下」の敬称を付して報道していたものです。又、次男でフンシンペック党(正式名称は「独立・中立・平和・協力のカンボジアの為の民族統一戦線」)の党首であったノロドム=ラナリット氏や、2004(平成16)年10月、父親を嗣(つ)いで新国王に即位した異母弟のノロドム=シハモニ氏に対しても、「ラナリット殿下」・「シハモニ殿下」と「殿下」の敬称を付して報道していたものです。

カンボジア現代史を彩ったノロドム王家の三人の「殿下」達
ノロドム=シハヌーク殿下
(前カンボジア国王)
ノロドム=ラナリット殿下
(現カンボジア国王首席顧問)
ノロドム=シハモニ殿下
(現カンボジア国王)

それにしても、これは面妖としか言いようがありません。何故なら、自国(日本)の皇族に対しては正式な敬称である「殿下」を用いる事無く「さま」扱いで通し(然(しか)も漢字の「様」ですら無い)、傍(かた)や、外国の王族に対しては「殿下」の敬称を付して呼ぶ。これはどう見ても筋が通っているとは言い難(がた)く、穿(うが)った見方をすれば、マスコミは日本の皇族に対する正しい敬称の不使用を通して、皇室の品位、格式を徒(いたずら)に貶(おとし)めているのでは無いか?とすら思えてしまうのです。

後に、世論調査記事中の「皇室報道で敬語を使うこと」云々と言う文面に付いて一言述べたいと思います。茲(ここ)迄見てきた通り、「陛下」・「殿下」と言う最低限用いられる可き正しい敬称ですら用いていないマスコミの現状に於いて、一体何が「皇室報道で敬語を使うこと」云々なのか? 又、マスコミがその様な姿勢だからこそ、皇室に対する国民の関心が低下したのでは無いか?(全ての原因がマスコミにあると迄は言わないが) 差別に繋がるとか公序良俗に反する等の理由でマスコミが「放送禁止用語」の名の下(もと)に「自主規制」ルールを設けるのは構わないが、せめて、正しい言葉、正しい敬称くらいは守ってもらいたい。戦前の「不敬罪」が廃止されたご時世であれば尚の事、『皇室典範』と言う法律に規定されている皇族方に対する敬称 ── 天皇・皇后(Emperor and Empress)に対しては「陛下」(His/Her Imperial Majesty 略称:HIM)、親王・内親王・王・女王(Prince and Princess)に対しては「殿下」(His/Her Imperial Highness 略称:HIH) ── を、視聴者から受信料を徴収しているNHKを筆頭に、マスコミはきちんと用いる可きでは無いのか? 私は、その様に強く感じるのです。(了)


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