Reconsideration of the History
141.「当事者」不在の「皇室典範に関する有識者会議」に異議あり!! (2005.2.21)

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成17年1月25日、小泉総理肝煎(きもい)りの私的諮問機関「皇室典範(てんぱん)に関する有識者会議」(以下、「皇室典範改正会議」と略)の初会合が開かれました。この会議の議題は、皇位継承について定めている『皇室典範』の改正について。現行『皇室典範』(以下、「現典範」と略)に謳(うた)われている

皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する

と言うルールに遵(したが)う限り、昭和40年の秋篠宮殿下御降誕を最後に皇室に男子がお生まれになっていない以上、近い将来、皇統が断絶し日本から「天皇」が消える可能性がある。その危機を回避する為にも、女帝の容認も含めて、「現典範」の問題箇所を改正すべきだ、と言うのが会議の趣旨である訳です。まあ、趣旨は分かります。何もせず、手を拱(こまね)いていれば、『日本国憲法』第一条に

天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、
この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く

と謳われている「日本の象徴」── 言い換えれば、「日本のアイデンティティ」が消滅してしまう訳ですから。しかし、それでも私は敢えて「皇室典範改正会議」に異議を唱えます。何故(なぜ)、異議を唱えるのか? 今回は「歴史云々」抜きで、この問題について触れてみたいと思います。

「皇室典範改正会議」に異議あり!! 何故、私が異議を唱えるのか? その理由を書く前に、先(ま)ずは、同会議の顔触れを見てみる事にしましょう。

「皇室典範に関する有識者会議」構成メンバー
吉川弘之 [座長] 産業技術総合研究所理事長・元東京大学総長
園部逸夫 [座長代理] 元最高裁判所判事
岩男壽美子 武蔵工業大学環境情報学部教授(男女同権論者)
緒方貞子 独立行政法人国際協力機構(JICA)理事長・第8代連合国(国連)高等弁務官
佐々木毅(たけし) 東京大学総長・法学博士
奥田碩(ひろし) 社団法人日本経済団体連合会(経団連)会長・トヨタ自動車株式会社取締役会長
久保正彰 東京大学名誉教授(ギリシャ・ローマ文学専攻)
笹山晴生 東京大学名誉教授(日本古代史専攻)
佐藤幸治 近畿大学法科大学院長・法学博士
古川貞二郎 元内閣官房副長官

この会議のメンバーを見ると、確かに「有識者会議」の名に相応(ふさわ)しい錚々(そうそう)たる顔触れである事には違いありません。しかし、非常に気になる事もあります。それは、このメンバーの中に現職・元職を問わず、「皇室の執事(番頭)」たる宮内庁の長官経験者も入っていなければ、ましてや、天皇陛下を初めとする皇族方の御側で、日常のお世話をしている侍従・大夫(だいぶ)経験者も入っていない事です。つまり、皇室と一番関わりの深い宮内庁の関係者は誰一人含まれていない訳です。

(そもそ)も、「皇室典範改正会議」のメンバーに宮内庁関係者が誰一人選ばれていない事自体に非常に問題がある訳です。『日本国憲法』には、天皇 ── 言い換えれば皇室について規定している以下の条項があります。

『日本国憲法』(抜粋)

第1条(天皇の地位・国民主権)

 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基(もとづ)く。

第2条(皇位の継承)

 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

第3条(天皇の国事行為と内閣の責任)

 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

第4条(天皇の権能の限界、天皇の国事行為の委任)
  1. 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行(おこな)ひ、国政に関する権能を有しない。
  2. 天皇は、法律(註:『国事行為の臨時代行に関する法律』の事)の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
第5条(摂政)

 皇室典範の定めるところにより、摂政(せっしょう)を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。

第6条(天皇の任命権)
  1. 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
  2. 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第7条(天皇の国事行為)

 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
  1. 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
  2. 国会を召集すること。
  3. 衆議院を解散すること。
  4. 国会議員の総選挙の施行を公示すること。(註:「国会議員の総選挙」は実際にはあり得ず、欠陥条項)
  5. 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏(かんり)の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
  6. 大赦、特赦、滅刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
  7. 栄典を授与すること。
  8. 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
  9. 外国の大使及び公使を接受すること。
  10. 儀式を行ふこと。
第8条(皇室の財産授受の制限)

 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若(も)しくは賜与(しよ)することは、国会の議決に基かなければならない。

天皇に許されているものは、『日本国憲法』第7条に定められている「国事行為」のみ。実際に権力の行使如何に関わらず、政治的発言は一切認められてはいません。ですから、皇位継承問題についても、私を含め国民が侃々諤々(かんかんがくがく)議論しよう共、天皇陛下をはじめとする皇族方は「誰それを後嗣(あとつぎ)にしたい」等とは口が裂けても発言出来ない訳です。何故なら、皇位継承 ──「天皇」は『日本国憲法』第1条に規定されている「日本の象徴」であり、その継承については極めて重要な政治問題を内包しているからです。天皇陛下をはじめとする皇族方が、この問題で発言出来ない。だとすれば、御側にお仕(つか)えしている侍従・大夫職、若(も)しくは、宮内庁長官と言った宮内庁関係者を「皇室典範改正会議」のメンバーとして参画させ、皇族方のお考えを代弁させるのが適当では無いでしょうか? 直接発言する事を許されず、更には代理を通しての意思伝達をも許されないと言うのは、非常に合点(がてん)がいきません。

「皇室典範改正会議」と言うものは、あくまでも小泉総理が設置した「私的諮問機関」であるとされています。しかし、その「私的諮問機関」で出された結果が政治に非常に大きな影響をもたらす事は、道路公団や郵政公社の民営化問題で既に証明済みです。又、初めに「女帝ありき」と言った空気の中で議論が進められる「皇室典範改正会議」に、果たしてどれ程の公正さを期待出来るかどうかも甚だ疑わしい限りです。断っておきますが、私は決して「女帝」(将来の愛子内親王即位)に絶対反対ではありません。ただ、其処(そこ)に至る迄のプロセスに疑問を覚えますし、端(はな)から単なる「お墨付き」を与えるだけの為に用意された茶番であるならば、再度、人選からやり直すべきでは無いか、と思う訳です。

皇陛下を初めとする皇族方は、『日本国憲法』の規定により、政治的発言は一切認められてはいません。ですから、皇位継承の順位・資格範囲についても、「現典範」の改正問題についても、基本的に口を挟む事は許されてはいません。然(しか)し、「皇位継承」とは、とどの詰まりが皇室の「跡継ぎ」を一体誰にするか?と言う事である訳です。皆さん、考えてもみて下さい。貴方の家の跡継ぎを一体誰にするか?を決めるのは、何方(どなた)でしょうか? 貴方自身と貴方の家族、範囲を広げたとしても、貴方の親類縁者と言った所でしょう。それを、貴方の家族・親類縁者と全く関わりの無い第三者が勝手に話し合いを持ち、「跡継ぎは誰それに決めた」等と言ってきたら、貴方は一体どの様に感じるでしょうか? 「皇位継承問題」もそれと同じ事です。皇位継承について定めている「現典範」をどの様に改正すべきか?を論じるのは必要な事です。ましてや、将来の皇統存続の為にも、積極的にしなければならない事案である事も確かです。しかし、その議論から「当事者」である皇室が除外されている事が果たして良い事なのか、どうか? 「政治的発言」を認められていない事は確かですが、(こと)、「皇位継承問題」については、特例として天皇陛下をはじめとする皇族方の意見も汲むべきでは無いでしょうか? 直接、発言を求める事に問題があると言うのならば、意を体した宮内庁関係者を「皇室典範改正会議」のメンバーに加えるべきでは無いでしょうか? 私はこの様に考えるのですが、皆さんは如何(いかが)お感じになったでしょうか?


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