Reconsideration of the History
163.台湾の「台湾化」 ── 陳総統による『国家統一綱領』廃止と国連再加盟の決意 (2006.2.10)

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水扁・台湾総統が春節の1月29日(台湾に於ける旧正月の元日)、故郷での新年会の席上、今年の目標として、『国家統一綱領』の廃止と、「台湾」名義での国連(連合国)再加盟を検討する旨、発言したそうです。

陳総統 「国家統一綱領の廃止や『台湾』での国連加盟を検討」

 陳水扁総統は春節(旧正月)の元旦にあたる1月29日、故郷の台南県に帰省し、地元の人たちとの新年会に出席した。陳総統はこの席で、今年の目標として国家統一綱領の廃止や「台湾」の名義での国連加盟について検討することや、今年中に新憲法草案が誕生することへの期待を述べた。

 陳総統はこの日、母校である台南県麻豆中学校で開かれた地元の人たちとの新年会に出席し挨拶した。陳総統はこのなかで昨年12月の三合一選挙(地方統一選挙)に触れ「われわれは選挙の挫折からすでに立ち直り、新たな一歩を踏み出した。民進党内の人事の刷新と新内閣の発足だけでなく、今後すべての一歩が重要となる。結果を反省し見直すことで、これからの一年はもっとよくなる」と期待を述べた。

 さらに今後も堅持し持続していく方針として、民主改革の理想、台湾主体の意識、正常で美しい偉大な国家建設の3つを指摘し、その一方で検討すべき課題として、国家統一綱領の廃止と「台湾」名義の国連加盟を掲げた。

 陳総統は「われわれはみずからの道を歩まなければならない。皆さんもご存知のように、国家統一委員会はすでに看板が残っているだけだ。中身のない国家統一委員会、国家統一綱領をもって、一体どのようにして共同で統一を追求していけるのか。綱領のなかで、大陸と台湾を『一つの中国』として受け入れるとする原則も非常に問題だ」と指摘し、国家統一委員会および国家統一綱領の廃止に関し、真剣に考え、ふさわしい時期にこれをきちんと処理しなければならないとの考えを強調した。

 また、国連加盟について陳総統は「国家の尊厳と国際社会における地位を考えたとき、多くの人びとが言うように新しい思考と方法、つまり『台湾』の名義で国連に加盟することを真剣に考える必要がある」と指摘した。陳総統はそのうえで、長年外交部長を務め国際事情に明るい陳唐山・総統府秘書長に、「台湾」の名義で国連に加盟すべきかどうかについて、慎重に検討するよう指示したことを明らかにした。

 さらに新憲法の制定に関し「台湾には時代と身の丈に合った新しい憲法が必要だ。昨年6月に憲政改革の第一段階が完成したが、まだ不十分だ。ぜひ今年中に民間による『台湾新憲法』草案を誕生させ、社会的条件が整えば来年にも新たな憲法制定に向けた公民投票を実施することを期待している。これにより、台湾を美しく進歩した偉大な国として発展させ、台湾主体の意識を貫徹することができる」と語った。

【総統府 2006年1月30日】

(註):国家統一綱領は、李登輝前総統時代の1991年、政府の両岸政策として制定され、「民主、自由、均富を確立し中国を統一する」との目標が掲げられた。大陸も台湾も中国の領土であるとの見解のもとに統一へのプロセスを短期、中期、長期の三段階に分け、両岸が徐々に歩みより、最終的に統一を果たすことを期待する内容となっている。

『国家統一綱領』が何なのか? 我々日本人は知らない人の方が多いと思いますが、掻(か)い摘(つま)んで説明すると・・・我々が常日頃から「台湾」と呼んでいる国の正式国名は「中華民国」であり、「台湾」とは通称である訳です。そして、「中華民国」と言う国名からも分かる様に、台湾は建前として「本来、中国(支那)全土を領有する正統且つ合法な唯一の政権であり国家」を旗印としています。そして、現状は、大陸を共産党が不法占拠しており、「中華民国」は台湾に「一時的に避難」しており、大陸と台湾との国家統一を経て、再び、大陸を統治する・・・とまあ、一種非現実的且つ有名無実化した綱領である訳です。因(ちな)みに、台湾の首都は台北ですが、これはあくまでも「臨時首都」であり、建前としては南京を首都と位置付けています。(余談だが、北朝鮮の首都は平壌(ピョンヤン)だが、1948(昭和23)年から1972(昭和47)年迄の間は、「臨時(戦時)首都」の扱いであり、建前としては、韓国の首都・ソウルを正式な首都と位置付けていた。)

(さて)、この『国家統一綱領』の廃止を陳総統が打ち出したと言う事が一体何を意味するのか? 共産党が実効支配している大陸(支那=中華人民共和国)の存在を現実的に認め、幻想でしかない大陸奪還・復帰を放棄し、「台湾」(中華民国)が台湾を統治している現実を受け入れる、詰まり、脱中華民国=台湾化を明確に打ち出したと言う事になる訳です。これは、李登輝(台湾前総統)路線を今後も進む、もう後戻りする事は出来ない、と言ったのに等しく、政権基盤の弱い陳総統が、国策の舵(かじ)を「台湾化」に切ったと見る事も出来ます。

の流れの中で、陳総統が目指すのが、先に挙げた「台湾」名義での国連再加盟です。台湾は「中華人民共和国」の国連加盟を機に、安保理常任理事国の議席を失うどころか、国連そのものからも脱退し(昭和46=1971年10月)、今日に至っています。然(しか)し、台湾は人口2300万人を抱えるれっきとした「独立主権国家」です。これは、支那の「一つの中国」理論を支持する者ですら、決して無視する事の出来ない存在です。日本やインドと同様、アジアに於ける代表的な民主主義国家であり、経済的にも上位にある事は事実です。そんな国が国際社会から「鬼っ子」の如く扱われている事自体、抑(そもそ)も不自然であり、台湾が国際的地位をより向上させるには、国連への再加盟は最も現実的な選択と言えるでしょう。勿論、台湾の加盟に対しては、WHO(世界保健機関)への加盟妨害同様、支那があらゆる手段を以て妨害するであろう事は火を見るよりも明らかです。何故(なぜ)ならば、「一つの中国」の原則からすれば、国連に「中華民国」が議席を有する事は決して認められないからです。とは言え、朝鮮半島から、韓国と北朝鮮と言う、互いに自国を「半島に於ける正統な政権」と主張する国家が、国連に議席を有している以上、その前例がある以上、台湾の加盟を拒否すべき正当な理由はありません。まして、台湾が「中華民国」の看板を下ろし、「台湾」として加盟するのであれば、尚更(なおさら)の事です。

交が無いとは言え、台湾の隣国であり友邦である日本が、「仮想敵国」どころか「現実の敵国」である支那を牽制する意味でも、又、価値観を共有し、地政学的にも同盟するのが必然である台湾を支持する事は、決してマイナスにはなりません。支那・韓国・北朝鮮、そして、ロシアとの関係が上手(うま)くいっていない以上、台湾・東南アジア・インドとの関係を強化する事は日本の国策にも適(かな)ものです。「サバイバル・ゲーム」の渦中にある東アジアに於いて、日本が生き残る道は台湾との同盟であり、台湾にとっても日本との関係強化無くして国家の存立無し、と言う認識を相互に持つべき、そう言う時機に来ているとは言えないでしょうか?


   余談(つれづれ)

本と台湾は現在、国交が無い訳ですが、文化面・経済面での交流は非常に活発で、唯一、政治面(外交面)だけが停滞している様な状態です。然し、いざ蓋(ふた)を開けてみれば、国交が無いにも拘(かか)わらず、両国国会議員の相互訪問や、軍関係者の交流は意外と活発です。では、何故、日台両国が復交出来ないのか? それは、偏(ひとえ)に、台湾が「中華民国」の看板(国号)を掲げているからであり、『国家統一綱領』に見られる様に、自国をして、「本来、中国全土を領有する正統且つ合法な唯一の政権であり国家」との旗印を下ろしていないからです。

本は「中華人民共和国」(支那)と国交を「回復」(厳密には、国交「回復」では無く、国交「樹立」である)するにあたり、「一つの中国」の原則を受け入れてしまいました。(昭和47=1972年9月、日台国交断絶) 詰まり、「中華人民共和国」以外に「中華」=「中国」を名乗る国家を承認しない、と言うものです。これが足枷(かせ)となり、「中華民国」を名乗る台湾を承認する事も、復交する事も出来ないでいる訳です。とは言え、日台両国は敵対関係にありません。寧(むし)ろ、「友邦」と言った方が良い関係にあります。その台湾が『国家統一綱領』を廃止し、「中華民国」の看板を下ろして「台湾」に掛け替えるとなれば、「中華人民共和国」と「中華民国」と言う「二つの中国」によるジレンマは解消し、日本を縛っていた「一つの中国」原則からも解放されます。勿論、支那が台湾の「台湾化」等是認する筈が無いのですが、台湾が日本及び諸外国からの正式な国家承認と外交関係樹立を目指すのであれば、台湾の「台湾化」は必要不可欠、いや絶対条件であり、今後の日台関係強化の為にも、後退は決して許されないでしょう。


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