Reconsideration of the History
209.二度と「第二衆議院」とは呼ばせない!! ── その名に恥じぬ「参議の院」を確立せよ!! (2009.5.8)

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参議院本会議の模様 本政界での専(もっぱ)らの関心事と言えば与野党を問わず、「衆議院の解散・総選挙は何時(いつ)行われるのか?」では無いでしょうか? ところで、ご存じの様(よう)に、日本の国会(議会)は衆議院と参議院とからなる「二院制」を採用しています。そして、『日本国憲法』の規定により、衆参両院で異なった議決が為(な)された際には、衆議院の議決が国会の議決となる「衆議院の優越性」と言うものもあります。その為か、兎角(とかく)、参議院は衆議院の陰に翳(かす)み、「第二の衆議院」等と揶揄される始末。彼(か)の「変人宰相」小泉純一郎氏ですら、日本の国会は「一院制」にす可(べ)し ── 詰まりは参議院を廃止し衆議院に一本化する ── 等と言う暴論を吐く程(ほど)ですから、その社会的地位と言うか存在価値は、正に地に堕ちてしまっていると言っても過言では無いでしょう。然(しか)し、私はその様な状況下にあろう共、敢えてこう言います。

一院制など以(もっ)ての外(ほか)!! 参議院の廃止に断固反対!!

と。いや、寧(むし)ろ逆に、二院制を維持した上で、参議院の改革に着手せよ!!と強く言いたい。と言う訳で、今回は、「第二の衆議院」と揶揄される参議院に光を当てる事で、私なりの国会改革案を披瀝してみたいと思います。

議院(the House of Councillors)は、諸外国に於ける「上院」(upper house)に相当する議院ですが、それでは、諸外国の「上院」とはどの様な存在なのか? 二院制を採用している諸国の「上院」を日本では一律に「上院」と呼んでいますが、実は「上院」と言う名称は正確ではありませんし、元々の存在意義をぼやかしてしまっている共言えます。我々が当たり前の様に「上院」と呼んでいる議院の多くは諸外国に於いて、

元老院

と呼ばれているのです。

諸外国に於ける「上院」の正式名称
国名 原語表記 正式和訳 議員選出方法
アメリカ 英語: the Untied States Senate 合衆国元老院 州代表(民選議員)
イギリス 英語: the House of Lords 貴族院 国王勅任者
フランス 仏語: le Sénat 元老院 民選議員
ドイツ 独語: der Bundesrat 連邦参議院 州代表(州政府派遣制)
イタリア 伊語: il Senato della Repubblica Italiana イタリア共和国元老院 民選議員と終身議員(大統領経験者等)により構成
カナダ 英語: the Senate of Canada
仏語: le Sénat du Canada
カナダ元老院 州代表(総督任命制)
オーストラリア 英語: the Senate 元老院 州代表(単記移譲式投票制)
スペイン 西語: el Senado de España スペイン元老院 民選議員と地方自治体代表により構成
ロシア 露語: Совет Федерации (Sovet Federatsii) 連邦院 連邦構成主体代表
ベラルーシ 露語: Совет Республики (Sovet Respublik) 共和国院 各州及び首都ミンスク市議会の代表と大統領指名者
ベルギー 仏語: le Sénat
蘭語: de Senaat
独語: der Senat
元老院 民選議員及び王族(国王の子女)
ポーランド 波語: Senat Rzeczypospolitej Polskiej ポーランド共和国元老院 民選議員(中選挙区制)
アイルランド 愛語: Seanad Éireann
英語: Senate of Ireland
シャナズ-エアラン
(アイルランド元老院
首相指名者・特定大学出身者及び下院議員・改選前上院議員・職業別委員会より選出
スイス 独語: der Staenderat
英語: the Council of States
全州院 州代表
インド ヒンディー語: राज्य सभा (Rājya Sabhā)
英語: the Council of States
ラージヤ-サバー
(全州院)
各州議会議員による間接投票及び大統領指名者
フィリピン 比語: Senado ng Pilipinas
英語: the Senate of the Philippines
フィリピン元老院 民選議員(全国区制)
マレーシア 馬語: Dewan Negara
英語: the Senate
デワン-ネガラ
元老院
国王勅任者及び各州議会選出者
タイ 泰語: วุฒิสภา
英語: the Senate
ウッティサパー
元老院
国王勅任者及び民選議員
ブータン ゾンカ語: རྒྱལ་ཡོངས་ཚོགས་སྡེ། (Gyelyong Tshogde)
英語: the National Council
ゲヨン-ツォグデ
(国家評議会)
国王勅任者及び民選議員
メキシコ 西語: la Senado de la República 共和国元老院 各連邦行政区・州代表及び全国区代表(民選議員)
ブラジル 葡語: Senado Federal 連邦元老院 各連邦行政区・州代表(民選議員)
アルゼンチン 西語: el Senado 元老院 各連邦行政区・州代表(民選議員)
南アフリカ 英語: the National Council of Provinces (NCOP) 全国州評議会 各州議会選出の常任議員及び各州政府閣僚が兼任する特別議員により構成

「元老院」の起源は、古く古代ローマに迄遡(さかのぼ)ります。古代ローマでは、建国の王ロムルス(「ローマ」の語源となった)の時代以来、貴族(パトリキ)が終身議員として「元老院」(セナトゥス Senatus)を構成し、王政時代には国王の助言機関、共和制時代には国権の最高統治機関、そして、オクタウィアヌス(アウグストゥス)が帝位に即(つ)いて以降の帝政時代には皇帝の諮問機関として機能してきました。その後、ローマ起源の「元老院」は、例えば、貴族(爵位を有する者)が選挙を経る事無く国王から直接任命される英国の「貴族院」や、地方自治体(連邦行政区・州等)代表や有識者、国家元首経験者や王族が議員を務める議院として、「衆議院」(日)・「庶民院」(英・加)や「国民議会」(仏)、「代議院」(米・伊・濠・西・)と言った民衆の政治参加を起源とする下院とは一線を画してきました。

代日本の上院に相当する「参議院」の前身が「貴族院」(House of Peers)であった事は皆さんもご存じだと思います。その貴族院はと言えば、地位こそ旧衆議院と対等(但し、予算先議権は衆議院)だったものの、普通選挙により選出される衆議院議員とは異なり、貴族院議員には誰もがなれた訳ではありません。その資格は、皇族・華族及び天皇勅任者に限られ、現在の参議院議員の様に、衆議院議員からの鞍替えや知名度の高さを利用したタレント議員等と言うものは存在し得ませんでした。又、議員の多くが終身任期で議院の解散もありませんでした。これを現在の「民主主義」に逆行する閉鎖的で極めて前近代的な議会システムと見る向きもあるかも知れません。然し、それとは逆に、当選或(ある)いは再選する為、常に選挙区民(票田)の顔色を窺い、利益誘導に腐心しなければならない現代の議員とは異なり、選挙の洗礼を受けずに済むからこそ、天下国家の大局に目を向け論じる事が出来ると言うプラス面があった事も事実です。私は冒頭で、日本の国会を「参議院を廃止し一院制にす可し」と言う意見に反対する旨、主張しましたが、それは何も現在の参議院を、その儘(まま)残せと言っているのではありません。衆議院議員になるのは難しそうだが、参議院議員なら何とかなりそうだ・・・と言った感覚の所謂(いわゆる)「第二の衆議院」としての参議院を存続させろ等とは露共思っていません。「参議院」 ── 私は、この名称に相応(ふさわ)しい議会上院として、ローマ起源の「元老院」、『大日本帝國憲法』下の「貴族院」を継ぐ由緒正しい議院として、新たな「参議院」を確立せよ!!と言っているのです。

「参議院」 ── 私は、これを文字通り、

参議の院

と解釈します。それでは、「参議」とは一体何なのか? 「参議」とは古く平安時代、律令制(りつりょうせい)に基づく司法・行政・立法を司る国家の最高意志決定機関「太政官(だじょうかん)」に於ける官職の一つで、朝廷政治に参画した実務官の事です。又、王政復古なった明治新政府に於いては、公卿(くぎょう 貴族)出身者が就任した大臣・納言(なごん)と共に、木戸孝允(きど-たかよし 桂小五郎)・西郷隆盛(南洲)・伊藤博文(俊輔)と言った維新の功臣達が就任、政務に参画した官職、それが「参議」でした。尚、余談ですが、「参議」は、律令制期の唐名を「宰相(さいしょう)」、新政府期に於ける英訳呼称を「ミニスター」(Minister = 大臣)と言い、衆議院の風下(かざしも)に立たされている現在の「参議」院議員からは想像出来ない程、地位も職権も高かったのです。その「参議」の名を冠する議院、それが「参議院」なのですから、その名に恥じぬ、いや、本来、その名に相応しい議院である可きなのです。

「参議の院」。その名に相応しい参議院の役割とは一体何なのか? 例えば、米国の上院(合衆国元老院)は、下院(合衆国代議院 the United States House of Representatives)に認められている予算案及び関連法案に関する発議権が無い代わりに、下院には無い弾劾(だんがい)裁判権・条約批准承認権・大統領指名人事承認権を行使する権限が付与されています。又、米国議会には、日本に於ける所謂「衆議院の優越性」の様なものはありません。詰まり、米国議会に於いては、上下両院は対等な立場である訳です。但(ただ)し、前述の通り、審議案件に関する一種の「棲(す)み分け」は確立していますし、上院が州の代表(定数は各州2名ずつの100名)であるのに対し、下院は民衆の代表(人口により各州の議席を配分)として選出されています。詰まり、日本に於いても、衆参両院で「全く同じ議事案件」を審議する必要性はありません。衆議院で審議可決したものを、参議院へと送り再び審議可決して、初めて法案が成立する等と言う「二度手間」は時間の無駄でしかありませんし、参議院で否決されても衆議院で再可決すれば矢張り成立すると言うシステムでは、参議院の真価は全く発揮され得ない訳です。ならば、どうある可きか? 答えは自(おの)ずと導き出されます。詰まり、

衆議院と参議院の権限を分割

してしまえば良いのです。例えば、衆議院には主に予算案及び関連法案に関する発議権や内政問題に関する権限を認める代わりに、参議院には外交・防衛・国土経営等、国家的規模の案件に関する権限を付与する。そうすれば、同じ法案を衆参両院で審議する「二度手間」は省(はぶ)けますし、衆参両院で与野党が逆転する所謂「捻(ねじ)れ国会」であっても、担当する権限が異なっていれば「三度手間」による法案成立の遅れも解消されます。何より、「参議院」が「第二の衆議院」を脱却し、その真価を発揮出来る土壌が生まれるのですから、例え二院制を維持したとしても、それはそれで有効に働く筈です。

「小泉改革」の様に、何でもかでも「無駄」は排除しろ!!と言う論理は分からなくもありませんが、肝心の「議院の棲み分け」(権限の分配と再配置)には手を付ける事無く、単純に「一院制にす可し!!」と言うのでは余りにも能が無さ過ぎます。改革するのならば、単純な廃止・一元化論では無く、無駄と思われていたものを「活(い)かす」方策を考える可きでは無いのか? 私は、そう強く思いますし、「国権の最高機関」(『日本国憲法』第41条)国会の一翼を担(にな)う上院 ── 参議院 ── の活性化こそ、政治の活性化に繋(つな)がるのでは無いかと思うのです。 (了)



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