Reconsideration of the History
208.海保巡視船を出すならソマリア沖より調査捕鯨船団護衛の方が先では無いのか? (2009.4.22)

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は前回の小論『207.他人を助けるのが「脱法活動」? ── 海自艦隊ソマリア沖派遣に見る歪んだ思考』に於いて、ソマリア沖での海賊対策の為に海上自衛隊(以下、「海自」と略)の護衛艦が派遣され、現地で船団護衛の任務に就いている事の是と同時に、海域を航行する船舶の船籍(国籍)に関係無く護衛す可(べ)きだと述べました。然(しか)し、今尚、社民党や共産党を中心に「何故(なぜ)、海自護衛艦を派遣するのか? 派遣するならば、寧(むし)ろ、海上保安庁(以下、「海保」と略)の巡視船を出す可きでは無いのか?」と言った現実を直視しない発言が為(な)されています。まあ、与党が「右」と言えば「左」、逆に「左」と言えば「右」と言うのが野党の論理なのでしょうから致し方ありませんが、それにしても、ソマリア沖への護衛艦派遣に反対する野党の皆さん、何か大切な事をお忘れではありませんか? 海保巡視船をソマリア沖へ派遣するよりも、先に派遣す可き所があるのではありませんか? と言う訳で、今回は、現実として海保巡視船を派遣しなくてはならない問題に付いて論じてみたいと思います。

れでは、先(ま)ず本題に入る前に、皆さんには以下の新聞記事をお読み頂きたいと思います。

第3勇新丸
下関に帰港した捕鯨調査船「第3勇新丸」。左舷後方の手すりが壊れている=山口県下関市で2009年4月13日午前8時47分、本社ヘリから上入来尚撮影
調査捕鯨:3隻下関に入港、妨害受け傷だらけの船も 山口

2009年4月13日 毎日新聞

 南極海で約5カ月の調査捕鯨を終えた目視採集船3隻が13日朝、山口県下関市に入港した。このうち「第3勇新丸」(742トン)は2月に反捕鯨団体「シー・シェパード」の妨害行為で船に衝突されており、海上保安庁の職員らが乗船して損傷状況などを調べた。同船の甲板の手すりは十数メートルにわたってひしゃげ、船体にはこすったような傷跡があった。

 第3勇新丸は調査母船「日新丸」(8044トン)などと計6隻で調査船団を形成し、昨年11月半ばからクジラの捕獲調査をしてきた。調査捕鯨を巡っては近年、反捕鯨団体による妨害行為がエスカレートしており、第3勇新丸も日本時間の2月6日夕、クジラを日新丸に引き渡そうとした際に左舷後方から衝突され、液体入り瓶を投げられた。乗員20人にけがはなかった。

 男性船員は「妨害は数回あった。衝突時は、航行中に突然ぶつかられて船が激しく揺れた。塗料か何かが入った瓶も投げられた。気持ちが高ぶっていて怖いとは思わなかったが、帰ってこられて今は一安心しています」と話した。

 14日朝には日新丸も下関港に入港する。【取違剛】

シーシェパード活動船「スティーブ・アーウィン号」
シーシェパードの海賊旗 「シー・シェパード保護協会」の活動船「スティーブ・アーウィン号」(排水量 1,017t)。漆黒の船体もさる事乍ら、船首にはためく黒旗に注目。其処に描かれているのは髑髏であり「海賊旗」である。正に「国際環境保護団体」を騙る彼らの「本当の姿」を象徴するが如き旗と言えよう。
本の調査捕鯨は、日本も加盟する「国際捕鯨委員会」(以下、「IWC」と略)に於いて認められている「合法的な活動」です。その合法的な活動たる調査捕鯨を今迄(いままで)幾度と無く妨害、捕鯨船に対して皮膚や粘膜に影響を及ぼす酪酸入りの瓶を投げ込んだり、体当たりして船体を損傷させたり、更には不法に移乗したりと言った事を繰り返してきたのが、彼(か)の有名な「シー・シェパード保護協会」(Sea Shepherd Conservation Society;以下、「SS」と略)です。彼らは自らを「国際環境保護団体」と称していますが、実態は「国際テロ組織」です。

国に本部を置くSSは、「目的達成の為には手段を選ばない」事で有名で、相手方船体や乗組員に対する銃器の発砲や、爆薬を用いた「撃沈」すら何ら厭(いと)いません。実際、日本の船舶が標的にされた主な事件をピックアップしただけでも、昭和55(1980)年、ノルウェー人と日本人が共同所有していたソマリア船籍の捕鯨船「シエラ号」を撃沈。平成19(2007)年2月9日、調査捕鯨母船「日新丸」に酪酸入り瓶を投げ込み乗組員2人が負傷。同月12日には、目視調査船「海幸丸」に抗議船を体当たりさせスクリューを破損。平成20(2008)年1月15日、南極海で調査捕鯨中の目視採集船「第2勇新丸」に酪酸を投げ込んだ上、活動家2人を不法移乗。(その後、活動家は「第2勇新丸」乗組員により身柄を確保拘束された) そして、今年(平成21年)1月6日には、行方不明乗組員を捜索中の調査捕鯨船に接近、捜索活動を妨害する等、正にやりたい放題を繰り返してきました。

ポール=ワトソン
これが国際テロ組織「シー・シェパード保護協会」の代表、ポール=ワトソンだ。彼らは「国際環境保護」を看板にしてい乍ら、平気で自然環境に放出が禁止されている薬物を投擲したり、目的の為なら人命をも軽視する等、その手段を選ばない行動原理には、長野県松本市や都内地下鉄で「サリン」を撒いた「オウム真理教」と同様のカルト集団的側面が見られる。
方の日本側捕鯨船は、人道的観点から極めて冷静且つ「紳士的」な対応をしてきました。例えば、平成19年2月9日に「攻撃」を受けた際、捕鯨船のスクリューにロープを絡(から)ませようと高速艇で接近し過ぎて海に転落、行方不明になった活動家2人の捜索要請をSS側から受けた際、実際に捜索に協力し救助しましたが、彼らが口にしたのは何と、

日本捕鯨船には感謝しているが、
今後も妨害活動は続ける

と言う常識的には考えられないものでした。又、平成20年1月15日、「第2勇新丸」への不法移乗により拘束したSS活動家の身柄を、2日後の17日、濠州(オーストラリア)政府の監視船経由で引き渡した僅(わず)か3時間後、今度は「第3勇新丸」が彼らから「攻撃」を受けたのです。善意に対しては悪意を以て返すSSの姿勢は、常識が通用しない、正(まさ)に「人の道に悖(もと)る」ものと言えるでしょう。そして、その様なSS ── 「国際テロ」組織から執拗な「攻撃」を受けているのが、日本の調査捕鯨船団なのです。

海上保安庁巡視船しきしま
海保特別警備隊 第三管区横浜海上保安本部所属の警備実施強化巡視船「PLH31 しきしま」(総排水量 7,175t)。海保版機動隊の「特別警備隊」を配備、大型ヘリ2機を搭載するその全長は150m。海上自衛隊の「はたかぜ」型ミサイル搭載護衛艦(満載排水量 5,900t)とほぼ同サイズの世界最大の大型巡視船である。
(さて)、此処(ここ)からが愈々(いよいよ)本小論に於ける核心なのですが、斯(か)くの如き「国際テロ組織」から繰り返し「攻撃」を受けてきた日本の調査捕鯨船団。彼らを守る術(すべ)は無いのか? 日本は海上保安官を同乗させる等の対策は取っていますが、今迄見てきた様に、彼らSSは

目的の為には手段を選ばない「国際テロ組織」

なのです。「話せば分かる」様な相手では到底ありません。その様な相手に執拗に付け回され「攻撃」を受け続けている以上、海上保安官の同乗だけで良い筈(はず)がありません。

マリア沖へは海自護衛艦では無く、海保巡視船を派遣す可(べ)し云々(うんぬん)と言った議論が為されていますが、それ以前に、先(ま)ずは、日本の調査捕鯨船団護衛の為に、海保巡視船を随行させる可きでは無いのか? 例えば海保は、海上の機動隊である「特別警備隊」を配備した「しきしま」等の警備実施強化巡視船を、現在14隻保有しています。其(そ)れらの内、1隻を割(さ)いて捕鯨船団に随行させては如何(いかが)なものだろうか?(「しきしま」の所属する第三管区横浜海上保安本部には、「しきね」と「しきしま」の2隻が配備されている)

SSが寄港する濠州政府は「反捕鯨」感情の強い国内世論を背景に、SSに対処するどころか逆に彼らを煽(あお)る始末。IWCも平成6(1994)年、レイ=ガンベル委員長が「IWCとその全ての構成員がシー・シェパードのテロ行為を非難する」と発言しつつ、その裏では「(妨害活動を)日本とノルウェーの範囲内で留(とど)めてくれるのなら遙かに良い」と本音(ほんね)を吐露。更に、平成18(2006)年には、ホルスト=クラインシュミット元副議長が、アドバイザーとしてSSに加入する始末。詰まり、映画の題名ではありませんが、

誰も守ってはくれない

と言うのが実情なのです。ならば、自分の身は、自分で守るしか無い。日本の捕鯨船団は、日本自身が守らねばならない。然(しか)も、相手は話の分からない「国際テロ組織」とくれば、強制力を持つ海保の特別警備隊の出番と言うのが自然では無いのか? 私は、そう強く思うのですが、皆さんは如何感じられたでしょうか?

   余談(つれづれ)

国ブッシュ前政権は、所謂(いわゆる)「9.11テロ」(私はイスラム過激派によるテロ攻撃では無く、米国の軍産複合体による自作自演だったと考えている)以来、彼ら言う所の「テロとの戦い」を繰り広げ、アフガニスタンのタリバーン政権、イラクのフセイン政権をそれぞれ打倒、オバマ政権に代わっても尚、「戦い」は続けられています。然し、本小論で取り上げたSSが、「国際環境保護団体」の看板を掲げてい乍ら、其の実態が「国際テロ組織」である、それどころか、其の本部が米国ワシントン州フライデーハーバーに置かれていると言う現実。米国は、世界中に自国軍隊を派遣展開してテロ組織を掃討壊滅する以前に、先ず、自国内に拠点を置くSSの壊滅から手を付けては如何なものだろうか? (了)



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