Reconsideration of the History
193.「プーチン帝国」ロシア最大の敵は日米欧に非ず!! 地球温暖化だ!! (2008.2.21)

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国ウクライナとの関係が悪化した途端、ウクライナ経由欧州行きパイプラインのバルブを閉鎖して天然ガスの供給を停止したり、ロイヤル-ダッチ-シェル・三井物産・三菱商事等の外資が開発に参加していた北樺太の天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」の本格稼働を目前にして言い掛かりを付け、国営会社ガスプロムに運営主導権を「接収」させたり、と正にやりたい放題のロシア。斜陽の超大国・アメリカを横目に、豊富な天然資源とその巨大市場、そして、好調な国内経済を武器に、国内的にも強力な中央集権で「事実上のツァーリ(皇帝)」として君臨するプーチンの現代ロシアを見ていると、米国と東西冷戦で対峙した旧ソ連帝国の「復活」を想起する方も少なからずおられる事でしょう。好調な経済は首都モスクワやサンクト-ペテルブルク等大都市に住む市民を益々豊かにし、貧しい地方への「配分」も怠らない。更に豊富な財力にモノを言わせて軍事予算も増額。今月9日、旧ソ連時代の昭和50(1975)年9月以来、実に33年ぶりとなる「東京急行」をロシア空軍が行った事をマスメディアで知った方も多い事と思います。

ロ爆撃機が領空侵犯 伊豆諸島

2008年2月9日 夕刊(東京新聞)

ロシア爆撃機飛行ルート  防衛省によると、9日午前7時30分36秒から同7時33分24秒までの2分48秒間にわたり、東京の南方約500キロの伊豆諸島南部にある嬬婦岩(そうふがん)上空をロシア軍の爆撃機TU95が領空侵犯した。

 航空自衛隊は千歳(北海道)、三沢(青森)、百里(茨城)の各基地からF15戦闘機など22機と浜松基地(静岡)から空中警戒管制機(AWACS)、三沢基地からE2C早期警戒機を各1機緊急発進させた。英語とロシア語で「領空に近づいている」と通告、さらに領空侵犯中は「領空侵犯しているから出るように」と警告したが、ロシア機は応答しなかった。

 ロシア機は樺太南方から北海道東部を経て太平洋を南下、伊豆諸島上空を領空侵犯後、同じルートをロシア方面に戻った。冷戦当時、日本の防空体制を探るため太平洋を南下した「東京急行」と呼ばれるルートに酷似している。

 軍事筋は「国防費を再び増やしているロシア軍が日本の防空体制を検証する狙いだったのではないか」と話している。


露爆撃機が領空侵犯 伊豆諸島南部 外務省、厳重抗議

2月10日8時1分配信(産経新聞)

 防衛省はロシア空軍の爆撃機が9日午前7時半ごろ、伊豆諸島南部を領空侵犯したことを明らかにした。

 領空侵犯は昭和42年以来34回目で最近では平成18年1月に露軍輸送機が北海道礼文島北方を領空侵犯して以来。外務省は同日、在日露大使館に事実関係確認と厳重抗議、再発防止を申し入れた。

ロシア空軍戦略爆撃機 TU95  防衛省によると、露沿海州から飛来したロシア空軍戦略爆撃機「ツポレフ95(TU95、通称ベア)」1機が、北海道東北で防空識別圏(ADIZ)に接近、進入したため北海道・千歳基地からF15戦闘機が緊急発進(スクランブル)するなど、TU95を追尾、監視。浜松基地からは空中警戒管制機(AWACS)が出動した。

 TU95は同日午前7時30分すぎから約3分間、伊豆諸島と小笠原諸島の間の孀婦(そうふ)岩上空で領空侵犯した。通告、警告をロシア語で行ったが、応答は一切なかったという。

 TU95は昨年7月にも伊豆半島より西側まで飛行した。

 近年、中国機に代わってロシア機の接近が増加傾向にある背景について、防衛省では「国防費増加や燃料事情好転、長距離航法訓練や情報収集など航空部隊の運用環境の変化がある」としている。

 ■露は否定

【モスクワ=遠藤良介】ロシアの戦略爆撃機が日本領空を侵犯したことについて、ロシア空軍報道官は9日朝(日本時間同日午後)、「空軍機は予定通りの任務を遂行した。日本領空は侵犯していない」と述べた。

 国営イタル・タス通信が伝えた。

ーチン大統領は、自らが作り上げた強権的中央集権体制と、御用政党「統一ロシア」、そして、体制のコントロール下にあるメディアを総動員した大衆扇動により、「圧倒的な国民支持」の下(もと)、嘗(かつ)ての旧ソ連時代の指導者に比肩する、いや、寧(むし)ろロシア帝国時代の「ツァーリ」(皇帝)と呼んでも良い程の強力な指導者となりました。二期目にあるプーチン大統領は、憲法の連続三選禁止規定により今年3月の大統領選挙には出馬しませんが、代わりに腹心のメドヴェージェフ第一副首相を後継指名。メドヴェージェフ「傀儡(かいらい)」大統領の下、首相として引き続き実権を掌握し、2012年の次期大統領選挙で再び大統領に返り咲くとの観測が専(もっぱ)らの見方です。

ウラジーミル=ウラジーミロヴィッチ=プーチン(左)と後継傀儡のドミートリー=アナトリエヴィッチ=メドヴェージェフ(右)

論、ロシア国民の全てが全て、プーチン支持と言う訳ではありません。旧ソ連の崩壊と急速な民主化・市場経済化により、富裕層の仲間入りを果たした人々がいるのと同時に、取り残されたり、見捨てられてしまった人々も数多くいます。名ばかりの「民主主義」を憂える人々は「ヤブロコ」(ヤブリンスキー連合)等の中道主義政党を組織してはいますが、プーチン政権の強権の下、その活動は著しく制約されていますし、国民の多くがプーチン大統領を事実上の「ツァーリ」として受け止める風潮、いや、プーチン大統領の皇帝即位すら受け容(い)れかねない風潮が蔓延し、強いロシア=「ロシア帝国」の復興を夢想している様にも見えます。その国民の圧倒的支持と好調な経済成長を背景に、例えば、日露関係ではエリツィン政権時代とは打って変わって、北方領土交渉では一切の妥協をしない、嘗ての旧ソ連時代同様の強硬姿勢に回帰しています。バブル経済が崩壊し国際競争力が低下してしまった現在の日本と、BRICs(ブラジル・露・インド・支那)の一員として経済成長を続けるロシアとでは攻守立場が逆転し、日本側に打つ手無しと言った状況である事は正直認めざるを得ません。然(しか)し、私は、我が世の春を謳歌している「プーチン帝国」のロシアが、何時迄(いつまで)も強力な国家を維持していられる等とは全く思っていません。そして、そのロシアを脅かす「敵」は、超大国の米国でも、NATO(北大西洋条約機構)の欧州でも、ましてや日本ですらありません。ロシアの繁栄を脅かすもの、それは、

地球温暖化

なのです。

存じの様に、ロシアは北方の大国です。その国土は、欧州とアジアに跨(またが)り、総面積は17,075,200km²。世界最大の領土を有しています。そのロシアにあって、ウラル山脈分水嶺以東の広大な地域を「シベリア」と呼びますが、そのシベリアで今現在、急速な異変が進行しています。シベリアは、「タイガ」と呼ばれる針葉樹林を中心とする広大な森林に覆われ、その地下には一年中融ける事の無い水分を多く含む「永久凍土」が存在しています。(右地図の紫色の部分が永久凍土の分布域) 詰まり、シベリアは一種、「氷に乗っかっている大地」なのです。然し、その本来一年中融ける事の無い永久凍土に近年、異変が生じています。それが、地球温暖化による永久凍土の加速度的な融解です。

永久凍土の融解が急速進行 シベリア、10年前の2倍

2008年01月18日21時24分(朝日新聞)

 シベリアの永久凍土の融解が数年前から急激に進行していることがわかった。18日、海洋研究開発機構が発表した。地球温暖化が原因と見られ、夏に解ける凍土の深さが2000年ごろの2倍になっている地点もあるという。湖沼の拡大や道路崩壊などの影響が出ている。

 同機構は、現地の研究機関と共同でシベリア東部のヤクーツクに観測センターを設置。ロシアの気象観測データと合わせて解析した。

 ヤクーツクの年平均地温(深さ1.2メートル地点)は、1998〜2004年の平均では零下2.4度だったが、2005年は零下1.4度、2006年には零下0.4度に急上昇。シベリア東部の別の3地点の平均地温も2005年から急にあがり、観測値のある1960年以降で最高になっている。

 夏に解けるヤクーツクの永久凍土の深さは、2000年前後には約1メートルだったのに、2006年や2007年には2メートルを超えた。周辺では、凍土が解けた場所にできる湖沼の面積が2007年は2000年の約3.5倍に拡大。川の増水や道路の陥没などの被害も出ている。

 温暖化による気温上昇に加え、凍土を解かす雨や、地面を冷えにくくする雪が増えたことが融解を加速していると見られる。凍土に閉じこめられている温室効果ガスのメタンが出て、温暖化がさらに進む懸念もある。同機構は「日本の気候にも影響すると考えられ、観測強化が必要だ」という。

シベリアのタイガ ベリアの永久凍土が何故、急速に融解しているのか? それは、地球温暖化もさる事乍(なが)ら、大規模な森林伐採による開発が影響しています。抑(そもそ)も、シベリアの大地は前述の通り、「タイガ」と呼ばれる広大な森林地帯(右写真)に覆われていました。そのタイガを形作っていた針葉樹が日本等への木材輸出の為、次々と伐採された事により、永久凍土の大地が「丸裸」にされたのです。今迄、鬱蒼とした針葉樹の木陰によって太陽光線が届かなかった地表に、直接太陽光線が届く様になった事の意味は極めて重大でした。太陽光線は地表を温め、更に本来融ける筈の無かった奥深くの永久凍土層をも融かし始めたのです。更に問題なのは、永久凍土層が単に水だけでなく、二酸化炭素やメタンガスをも封じ込めていた事です。二酸化炭素もメタンガスもどちらも温室効果ガスです。地下深くに「封印」されていた膨大な量の温室効果ガスが永久凍土の融解によって大気中に解き放たれ、凍っていた水分も液化し地表に上昇。次々と湖沼を出現させ、その地表に染み出した水が周囲に広がり、更に多くの永久凍土を融解させる。永久凍土と言う「氷結した頑丈な地盤」の上に生えていた樹林は、柔らかくなった不安定な大地の上で真っ直ぐ立っていられなくなり、次から次へと倒木。悪夢の連鎖が始まったのです。

シベリア鉄道路線図 ベリアはロシア領土の実に三分の二を占める広大な地域で、例えば、ユーラシアの真ん中に位置し、クラスノヤルスクを首府とするシベリア連邦管区(14の連邦構成主体により構成)にはロシア総人口の実に14%に当たる約2,080万人が暮らしています。又、シベリア鉄道及びバイカル-アムール鉄道(右路線図)、道路網やパイプライン等、極東地域と欧州ロシア地域を結ぶ各種インフラがシベリアを横断しています。それら各種インフラが機能していられるのは、偏(ひとえ)に「大地が安定」しているからです。然し、永久凍土が融解し「氷結した頑丈な地盤」が失われれば・・・今迄無かった場所に湖沼が出現したり、地盤の沈下や陥没により鉄道網やパイプラインが寸断されたり、と言った事態が次から次へと発生する事になります。然も、永久凍土の融解は年々加速しているのです。復旧しても復旧しても、次から次へと新たな問題箇所が出現する。正に鼬(いたち)ごっこであり、ウラジオストクやナホトカ等の極東地域とモスクワ等の欧州ロシア地域を結ぶインフラ網を維持する為に莫大な財政支出が生じます。いくら好調な経済に支えられているとは言っても、穴の開いた笊(ざる)に大金を入れ続ける様なもので、費用対効果では全くペイしません。かと言って事態を放置すれば、シベリアや極東地域からは「モスクワに見捨てられた」と取られ、政権基盤を揺るがしかねない事態にも直結します。此処(ここ)にジレンマが生じる訳で、「プーチン帝国」のロシアは、日米欧と言った国家にでは無く、大自然の異変に国家の安定・存立を脅かされる事になる訳です。

(さて)、ここからは肩の力を抜いてお読み下さい。時は遡(さかのぼ)り、未だソ連が東側(共産主義陣営)の盟主として、西側の盟主・米国と対峙していた頃の事。小室直樹氏が、「予定調和説」によるソ連崩壊を予言し、実際にソ連は皆さんがご存じの通り、共産党一党独裁政権が倒れ、連邦も解体してしまいました。これに倣(なら)う訳ではありませんが、私は一つのある「仮説」を持っています。それは概して直感に基づく非科学的なものなのですが、皆さんには、暫(しば)しの間、お付き合い頂きます。それでは、先ず、下の表をご覧下さい。

東側陣営の盟主・ソヴィエト連邦の時代
北方の列強国・ロシア帝国の時代
ゴルバチョフ ミハイル=セルゲイヴィッチ=ゴルバチョフ
Mikhail Sergeyevich Gorbachev

ソヴィエト連邦最後の指導者(大統領)
在任:1985-1991
ミハイル=ロマノフ ミハイル=フョードロヴィッチ=ロマノフ
Mikhail Feodorovich Romanov

ロマノフ朝初代ツァーリ
在位:1613-1645

ペレストロイカによる民主化とソヴィエト連邦の崩壊

動乱時代の終焉とロマノフ朝ロシア帝国の成立
エリツィン ボリス=ニコライエヴィッチ=エリツィン
Boris Nikolayevich Yeltsin

ロシア連邦初代大統領
在任:1991-2000
ゴドゥノフ ボリス=フョードロヴィッチ=ゴドゥノフ
Boris Feodorovich Godunov

ゴドゥノフ朝ツァーリ
在位:1598-1605

変革過渡期の混乱から「強いロシア」へ

全ロシアの統一とツァーリズムの確立
プーチン ウラジーミル=ウラジーミロヴィッチ=プーチン
Vladimir Vladimirovich Putin

ロシア連邦第2代大統領
在任:2000-
(ツァーリにもなぞらえる強権大統領)
イヴァン雷帝 イヴァン4世ヴァシリエヴィッチ 雷帝
Ivan IV Vasil'evich Groznyi

リューリック朝ツァーリ
在位:1533-1584
(ロシア史上最大の暴君)


全ロシアに於けるモスクワ大公国の覇権確立

この表は、左側に比較的最近のロシア指導者、右側にロシア帝国草創期の代表的なツァーリ(皇帝)をそれぞれ記載したものです。見方としては、それぞれ、左側が上から下へ、右側が下から上へ行く程時代が新しくなる様に作成してあります。この表をご覧になって何かお気付きの点はあるでしょうか? 先ず、第一にミハイル(ゴルバチョフ)とミハイル(ロマノフ)、ボリス(エリツィン)とボリス(ゴドゥノフ)、と言った具合に同じ名前が現れます。然も、ゴルバチョフは人民代議員大会により大統領に選出され、ロマノフも又、全国会議(ゼムスキー-ソボル)によりツァーリに選出。更に、ゴルバチョフは共産党一党独裁体制下のロシアに於いてペレストロイカによる民主化を推進、新時代の扉を開き、ロマノフもニコライ2世に至るロシア帝国の基(もとい)を開きました。第二に、両ボリスの時代の相似。エリツィンは新生ロシア連邦の初代大統領に就任しましたが、急激な民主化と市場経済化で社会が混乱。経済の低迷と共に国際的地位の低下をもたらしましたが、ゴドゥノフも又、イヴァン雷帝による恐怖政治の残滓(ざんし)と王朝断絶の中、新たなツァーリとなり、一定の評価を得るだけの賢明な統治を布(し)きましたが、治世の末期には社会が大いに乱れ、彼の死と共に動乱時代が訪れました。そして、第三に、プーチン現大統領とイヴァン雷帝の相似。イヴァン雷帝はツァーリズム(ツァーリによる専制政治体制)を確立し、後に続くロシア帝国の礎(いしずえ)を築きましたが、その性格は残虐にして苛烈。自らに反対する者は容赦無く排除・粛清し、「暴君」の名を恣(ほしいまま)にする程の独裁者。一方、プーチンも又、エリツィン時代に地に堕ちたロシアの国際的地位を向上させ、東西冷戦時代の旧ソ連に比肩する程の大国へと復興させましたが、一方で国内的にはチェチェン紛争への対処に見られる様に、逆らう者に対しては容赦無く武力を行使。財閥にしろ、メディアにしろ、意にそぐわない者は排除し、これを接収。正に雷帝の再来を彷彿とさせるものがあります。此処迄(ここまで)書いた所で、私が何を言わんとしているのかと言うと、とどのつまり、

ロシアは時代を逆行している

と言いたかった訳です。

16世紀のモスクワ大公国 シアは、欧州の北東部辺境の「ルーシ」(「ロシア」の語源であり古い呼称)の地にあった幾つもの小国家が統合され、天下統一を果たしたモスクワ大公国(右地図は、16世紀のモスクワ大公国=モスクワ-ルーシの版図:The Purple Chamber より引用)が発展、東方へと拡大する事で成立した国家です。そのロシア東部、シベリアの永久凍土が急速に融解しているのです。モスクワに座すプーチンは、雷帝にも比肩する程の強権を掌中にしつつありますが、それとは裏腹に「実質的な国土」が西側へと縮小しつつあるのです。永久凍土の融解によって「使い物にならない土地」が増えたからと言って、それら地域の領有権を放棄する事は無いでしょう。然し、「使い物にならない土地」が増えると言う事は、「実質的な国土」が減る事を意味し、大ロシアが嘗てのルーシ(小ロシア)に回帰する事を意味するのです。膨張したゴム風船は、ゴムの劣化により少しずつ空気が抜け、時間と共に収縮します。それと同様、西のルーシから極東へと膨張したロシアも、地球温暖化による永久凍土融解により、東方から実質的には撤退するのでは無いか? 私は今後の温暖化の推移と共にロシアの動向を注意深く見ていきたいと思います。

(了)


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