Reconsideration of the History
74.「統一朝鮮」を望まず!!〜南北首脳会談に困惑するアメリカ(2000.7.22)

前のページ 次のページ


2000(平成12)年6月13日、朝鮮半島分断から55年にして遂に、金大中(キム・デジュン)・韓国大統領(下写真右側)が、北朝鮮の首都・平壌(ピョンヤン)の地を踏み、積年の「宿敵」であった北朝鮮の最高指導者、金正日(キム・ジョンイル)・国防委員長(朝鮮労働党総書記;下写真左側)と対面しました。そして、南北両首脳は終始友好的なムードの中、両首脳によるトップ会談や歓迎晩餐会をはじめとする各種行事をこなし、6月15日、共同宣言に署名しました。

金正日・北朝鮮国防委員長(左)と金大中・韓国大統領(右)

南北首脳会談共同宣言

  1. 統一問題を自主的に解決する。
  2. 統一の為、南側の連合制案と北側の連邦制案の間に共通性がある事を認め、今後この方向で統一を目指す。
  3. 8月15日頃、離散家族・親戚訪問団を交換する等、人道的問題を早急に解決していく。
  4. 経済協力を通じ民族経済を均衡的に発展させ、社会や文化、体育等の分野の協力と交流を活性化し、相互信頼を固めていく。
  5. 合意事項を速やかに実行する為、早い時期に当局間の対話を開く。
今回の南北首脳会談について、韓国との同盟関係にある日米両国をはじめとする関係当事国は、朝鮮半島の緊張緩和に寄与するものとして、表向き好意的に受け止めています。しかし、果たして本当にそうなのでしょうか? と言う訳で今回は、南北首脳会談の「成果」に対して、日米韓同盟の盟主であるアメリカの「本音」と言う面から眺めてみたいと思います。

論から言えば、今回の「成果」についてアメリカは、表面的には「歓迎」し、本音では「困惑」していると言うのが実状です。それでは、まず表面的な面から眺めてみます。ソ連崩壊によって今や世界に比類無き「超大国」となったアメリカですが、繁栄のピークは既に過ぎていると言うのが実状です。「世界の警察官」を自認するアメリカは、今尚、強大な軍事力を有していますが、アフリカのソマリア内戦を解決出来なかった事や、コソボ紛争の際にも主導的な立場で事態収拾を図れなかった事等、国際的な指導・影響力は低下の一途を辿(たど)っています。この様な現状で、朝鮮半島の軍事的緊張が一気に高まり、第二次朝鮮戦争(実際には「朝鮮戦争」は未だ終わっていないのだが)が勃発する様な事態になる事は、アメリカにとって得策とは言えません。いざ「開戦」となれば、支那・ロシアと言った大国をも巻き込むでしょうし、日本も米韓両国と同盟関係にある以上、その火の粉が降りかかるのは必至で、事は朝鮮半島域内に留まらない訳です。その観点からすれば、朝鮮半島の緊張緩和は、いらぬ軍事紛争の「抑止」と同時に、現在のアメリカの国策共言える(アメリカ主導による)「世界秩序の平和的現状維持」にも合致する訳で、歓迎するのは至極当然と言えます。しかし、これはあくまでもアメリカの表面的な見解でしか無いのです。それでは次に、アメリカの本音について考えてみましょう。

メリカの本音、それは「朝鮮半島の現状維持」に尽きると思います。この現状維持が一体何を指しているのかと言うと、「民主主義国家」韓国と、「軍事独裁国家」北朝鮮による「朝鮮半島分断の維持」と言う事です。現在、朝鮮戦争の休戦協定によって、北緯38度線を境に南北の軍事境界線が引かれています。この軍事境界線は、単に朝鮮半島を南北に分断しているだけでなく、北朝鮮 ── 支那・ロシアと、韓国 ── 日米両国と言う二つの勢力圏(テリトリー)を分かつ境界線でもあるのです。つまり、この軍事境界線の存在によって、日米・支那・ロシアと言った大国をも巻き込んだ形で、極東アジアのバランスが保たれている訳です。もし、これが南北どちらかの優位によって崩れる様な事になると、地域バランスに多大な影響を及ぼすのは必至で、地域情勢の流動化は避けられません。国際的な指導・影響力が低下しているアメリカにとっては、北朝鮮による軍事的優位であろうが、韓国による経済的優位であろうが、どちらにせよ、一方の優位によって現在のバランスが崩れ、不安定化する様な事態は認められない訳で、北朝鮮には今迄通り金正日による「軍事独裁体制」を、韓国には日米と連携した「民主主義体制」を維持させたい訳です。

に言えば、アメリカは決して北朝鮮の崩壊を望んではいません。現在、韓国には日本同様に在韓米軍が駐留しています。これは在日米軍同様、表向きは北朝鮮(及び支那・ロシア)の軍事的脅威に対抗する目的で駐留しているものです。しかし、今回の共同宣言に謳(うた)われている

1.統一問題を自主的に解決する。
を盾に、北朝鮮が在韓米軍の撤退を要求し、韓国が緊張緩和の一環としてこれに応じる様な事にでもなれば、アメリカの極東戦略の崩壊にも繋がりかねません。又、よしんば北朝鮮が折れて、在韓米軍の駐留を認めたとしても、
2.統一のため南側の連合制案と北側の連邦制案の間に共通性があることを認め、今後この方向で統一を目指す。
を軸に将来的に南北が統一され、文字通り「自主の邦」として「完全独立」する様な事になれば、当然、コリア民族のプライドから言っても「自国の防衛は自国で!!」と言う訳で、朝鮮半島から米軍が撤退せざるを得ないでしょう。つまり、アメリカにとって朝鮮半島の緊張緩和は「適度」でこそあれ、決して「過度」であってはならない訳です。その観点からしても、北朝鮮を「生かさず殺さず」、適度な「敵対勢力」として存続させておきたいと言うのがアメリカの本音と言えます。

後にアメリカが最も恐れている事態を書いておきたいと思います。それは、南北の緊張緩和と北朝鮮の民主化が進み、韓国と平和的統一が実現されたあと ── 「統一朝鮮」と日本が、両国の歴史的過去を完全に清算し、強固な同盟関係(政治的・経済的・文化的連帯)を築く事、そして、日本が再びアジアにおいて名実共に「盟主」(指導的立場)となる事ではないでしょうか? なぜなら、それはアメリカのアジアからの「全面撤退」を意味するからです。その意味では、今回の南北首脳会談の成果にアメリカは正直「困惑」しているとは言えないでしょうか?


前のページ 次のページ