Reconsideration of the History
236.福島や浜岡だけでは無い! 日本は国防の観点からも原発を全廃せよ! (2011.5.17)

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成23(2011)年5月6日午後7時 ── 菅直人総理は首相官邸に集めた記者団を前に、斯(か)くの如き重大発表を行いました。

「国民のみなさまに重要なお知らせがあります。
 本日、私は内閣総理大臣として、海江田経済産業大臣を通じて、浜岡原子力発電所の、全ての原子炉の運転停止を、中部電力に対して要請をいたしました。その理由は、なんといっても、国民のみなさまの安全と安心を考えてのことであります。同時に、この浜岡原発で重大な事故が発生した場合には、日本社会全体に及ぶ甚大な影響もあわせて考慮した結果であります。
 文部科学省の地震調査研究推進本部の評価によれば、これから30年以内にマグニチュード8程度の想定の東海地震が発生する可能性は87%と、極めて切迫をしております。こうした浜岡原発の置かれた特別な状況を考慮するならば、想定される東海地震に十分耐えられるよう、防潮堤の設置など、中長期の対策を確実に実施することが必要です。
 国民の安全と安心を守るためには、こうした中長期対策が完成するまでの間、現在定期検査中で停止中の3号機のみならず、運転中のものも含めて、全ての原子炉の運転を停止すべきだと私は判断をいたしました。
 浜岡原発では、従来、活断層の上に立地する危険性などが指摘をされてきましたが、先の震災とそれに伴う原子力事故に直面をして、私自身、浜岡原発の安全性について、様々な意見を聞いてまいりました。その中で、海江田経済産業大臣とともに熟慮を重ねた上で、内閣総理大臣として、本日の決定をいたした次第であります。
 浜岡原子力発電所が運転停止をしたときに中部電力管内の電力需給バランスが、大きな支障が生じないように、政府としても最大限の対策を講じてまいります。電力不足のリスクは、この地域の住民のみなさまをはじめとする全国民のみなさまがより一層、省電力、省エネルギー、この工夫をしていただけることで必ず乗り越えていけると私は確信をいたしております。国民のみなさまのご理解とご協力を、心からお願いを申し上げます。」

浜岡原子力発電所
中部電力・浜岡原子力発電所
平成23(2011)年5月6日の菅総理の運転停止要請記者会見に応じる形で、中部電力は静岡県御前崎市にある浜岡原子力発電所の全原子炉の運転を停止した。建前上、国の管理の下、「厳格な安全基準」に則って建設、運用されてきた原発に対し、国自身が「原発は危険なもの」と示した訳で、日本の原子力行政に於いて、正にエポックメイキング共言える出来事だった。
浜岡原発が原子力事故を起こした場合の居住不能地域
浜岡原発が原子力事故を起こした場合の居住不能地域
平成16(2004)年、瀬尾健・京大原子炉実験所助手(故人)開発のプログラムを元に、同実験所の小出裕章助手が試算した結果は衝撃的なものだった。浜岡原発2号機(84万kW)で原子炉圧力容器が蒸気爆発を起こし大量の放射性物質が大気中に放出される事態を想定し、平成12(2000)年国勢調査時人口を元に、事故後7日で全員避難すると仮定した場合・・・名古屋方向に風が吹くと、急性死する人が静岡県内で約4万7千人、後に癌で死亡する人が愛知県で33万人等、計約95万人の死者が出ると予測。更に、東京方向に風が吹いた場合、死者は計176万人に増えると言う。然も、このシミュレーションには地震やテロ、武力攻撃は全く加味されては居ない。
の要請を受け、中部電力は5月9日に臨時取締役会を開催。同日夕、名古屋の本店に於いて水野明久社長が記者会見を開き、菅総理の要請受諾を正式発表。此処(ここ)に浜岡原発は、既に運転を終了、廃炉が決まっている1・2号機、定期検査に伴い運転休止中の3号機、増設着工が凍結された6号機に加え、運転中だった4号機が13日、5号機が翌14日に夫々(それぞれ)運転を停止し、全原子炉から火が消えたのです。

3月11日の東日本大震災により、深刻な事故を起こした福島第一原発(福島県大熊町・双葉町)、原子炉の冷却機能が一時的に喪失したものの、現在は冷温停止状態にある福島第二原発(福島県富岡町・楢葉町)、そして、同じく冷温停止状態にある女川(おながわ)原発(宮城県女川町・石巻市)に加え、今回、地震の直接的被害を全く受けていない浜岡原発も運転を停止した訳ですが、それでも現在、日本国内では、北は北海道泊(とまり)村の泊発電所から鹿児島県薩摩川内(さつませんだい)市の川内原発に至る迄、全18発電所55基中、10発電所21基の原子炉が運転しています。(平成23年5月14日現在:実験炉である「もんじゅ」を除くと、全17発電所54基中、9発電所20基)

(さて)、福島第一原発が「メルトダウンした」と公式発表される程の甚大な事故を起こし、発生が予想される東海地震による被害を未然に防ぐ為に浜岡原発が運転停止した中、この期(ご)に及んでも、まだ経済への影響や夏場の電力不足に対する不安から原発に賛成する国民が多いのが残念乍(なが)ら現実です。その様な状況を踏まえた上で、私自身の原発に対するスタンスを明らかにしたいと思います。

日本は現在稼働中の原発を全て停止し、随時廃止せよ!!

と。では、何故(なぜ)、私が「左翼」でも無ければ(と言う事は「右翼」か?)、「市民運動家」でも無いのに、彼らの十八番(おはこ)共言える「反原発」を声高(こわだか)に掲(かか)げるのか? それを今から得々と述べたいと思います。

日本国内の原子力発電所及び原子炉運転状況一覧
(平成23年5月14日現在)   

北鮮の弾道ミサイルの射程距離
北鮮の弾道ミサイルの射程距離
北鮮が保有する弾道ミサイルの射程距離を北鮮を中心に同心円状に描いた地図だが、長射程の「大浦洞(テポドン)」は言うに及ばず、旧式で射程が1,000〜1,300kmと言われる「労働(ノドン)」ですら、日本列島がすっぽり収まる射程距離を誇る。
韓国の弾道ミサイルの射程距離
韓国の巡航ミサイルの射程距離
韓国が実戦配備を完了した空対地ミサイル「若鷹(ポラメ)」は500km以下だが、地対地ミサイルの「玄武(ヒョンム)U」で1,000km、開発中の「玄武V」に至っては1,500kmの射程距離を誇る。「主敵」である対北鮮用に開発するのであれば、これ程の長射程は必要無い。詰まり、これらは日本を含む朝鮮半島外の周辺国に対する戦略打撃用に開発されたものなのである。
「中国」(支那)の弾道ミサイルの射程距離
「中国」(支那)の弾道ミサイルの射程距離
「中国」は吉林省通化の人民解放軍第二砲兵部隊基地に、日本国内の主要都市及び自衛隊・在日米軍基地に照準を合わせた核弾頭搭載型弾道ミサイルを配備しており、射程1,750km以上の「東風(ドンフェン)21型」(開発中の東風21A型では射程2,150km以上)ですら、日本全土を射程に収めている。
原発から半径20kmエリア
▲ 原発から半径20kmエリア
原発から半径50kmエリア
▲ 原発から半径50kmエリア
原発から半径100kmエリア
▲ 原発から半径100kmエリア
原発から半径200kmエリア
▲ 原発から半径200kmエリア

一の理由は、福島第一原発の事故でも深刻な問題となっている放射性物質の漏出拡散 ── 放射能汚染 ── です。今回の事故により、新聞やテレビのニュースを通じて皆さんも其の名前を知る所となった放射性物質「セシウム137」(137Cs)と「沃素(ようそ)131」(131I)。これら放射性物質の厄介な所は「半減期が長い」事に尽きます。(例えば、我々に身近な酸素(16O)の放射性同位体「酸素15」(15O)の半減期はたったの122.24秒である) 「半減期」とは、放射性物質が発するα(アルファ)線やβ(ベータ)線・γ(ガンマ)線と言った放射線の量が元の半分になる迄の時間(期間)を指す用語ですが、例えば、問題となっているセシウム137の半減期は30.1年(最終的には非放射性の「バリウム137」(137Ba)へと変質する)、沃素131の半減期は8.1日(最終的には半減期11.8日の「キセノン131」(131mXe)へと変質する)ですが、原子炉の燃料として用いられている「ウラン235」(235U)では7億380万年(同位体である「ウラン238」(238U)の半減期に至っては、何と「地球の年齢」共言われる45億年)、放射性廃棄物に含まれる「プルトニウム239」(239Pu)では2万4千年と、夫々其の頃迄果たして「ホモサピエンス(現世人類)」と言う種(しゅ)が存続しているのか否(いな)かも分からない程途方も無い期間、放射線を放出し続けます。経済や電力への影響から原発もやむなしと言う「目先の理由」も丸きり分からないでもありませんが、今回の福島第一原発と同様の事故が起きれば、「目には見えない」ものの長期間に亘(わた)って、我々の住む土地を奪い、経済活動に甚大な影響を及ぼす放射能と言う厄介な代物を撒き散らす事が端(はな)から分かり切っている原発に依存し続ける、其の事の方が私には理解出来ません。今回、「想定外」と言う言葉が余りにも乱発されましたが、事は「想定外」の三文字が免罪符になる程、決して容易(たやす)くは無いのです。

二の理由は、表題にも掲げている通り、国防の観点からの原発不要論です。平成10(1998)年、一つの衝撃的な小説が発表されました。麻生幾(あそう-いく)の『宣戦布告』がそれです。この小説は4年後の平成14(2002)年に同名で映画化もされ、ご覧になった方も居(お)られる事と思いますが、大まかな粗筋(あらすじ)は、原発に対するテロ攻撃目的で福井県敦賀半島に侵入座礁した「北東人民共和国」(映画に登場する架空の国だが、北鮮をモデルにしている事は論を俟(ま)たない)の潜水艦が発見されるも、乗船していた特殊部隊は既に上陸後。この緊急事態(映画では「敦賀事変」と命名された)に、現行法制の様々な制約から対応が後手々々に回る日本の危機管理の盲点が描かれていますが、これを単なる「フィクション」と笑えないのが怖(こわ)い所です。架空の「北東人民共和国」ならぬ現実の北鮮は、依然として核兵器開発を続けていますが、日本の国防にとっての問題は、

北鮮が核兵器を持つか?
持たないか?では無い!!

事です。では、それは一体如何(どう)言う事なのか?に付いて説明します。

鮮が核弾頭の開発に成功したか否かは別にして、既に「労働(ノドン)」・「大浦洞(テポドン)」と言う弾道ミサイルの開発には成功して居り、実戦配備されています。平成21(2009)年4月5日の北鮮によるミサイル発射実験では、彼ら称する所の「銀河(ウンハ)2号」ロケット ── 実際には大陸間弾道ミサイル「大浦洞2号」 ── が、北東部、咸鏡北道(ハムギョンプクド)舞水端里(ムスダンリ)から発射され、日本の東北地方上空を通過、太平洋に落下しましたが、日本が警戒す可(べ)きは、何もこの時発射された射程6,000kmの「大浦洞2号」には限りません。射程1,500km以上と言われる「大浦洞1号」どころか、旧式で射程が1,000〜1,300km程度と言われる「労働」、然(しか)も核弾頭を搭載していないミサイルですら充分脅威足り得ます。例えば、射程1,300kmの核弾頭非搭載型の「労働」が、『宣戦布告』の舞台となった敦賀半島 ── 敦賀原発 ── に照準を合わせて発射され、実際に着弾したとします。すると、例え「労働」に核弾頭を搭載して居なく共、核弾頭を搭載していたのと同様の「戦果」を上げる事が可能です。何故なら、攻撃目標である原発内には核兵器の材料と同様のウランやプルトニウムがぎっしり詰まっているのですから。(厳密には、発電用と核兵器用のものとでは同位体の比率、濃縮度が異なるのだが) ですから、わざわざ核弾頭を弾道ミサイルに搭載せず共、原発を狙えば、核攻撃を行ったのと同様の被害 ── 核爆発は生じないものの、放射能汚染と言うダメージ ── を相手に与える事は可能である訳です。然も、北鮮から見れば、日本海を隔てた対岸の新潟・石川・福井・島根各県に8ヶ所もの原発が並び、わざわざ長射程の「大浦洞」を持ち出す迄も無く、旧式短射程の「労働」で充分事足りるのです。これはある意味、北鮮の核開発進捗度に関わらず、日本の国防にとって極めて憂慮す可き事案であると私は考えます。然し、脅威が北鮮に限った事では無い、その事の方が問題なのです。

緯38度線を境に「北」(北鮮)と対峙している韓国は、「日米」(『日米安全保障条約』による軍事同盟)・「米韓」(『米韓相互防衛条約』による軍事同盟)と言う二つの軍事同盟体制を通して、日本では「日米韓三国同盟」等と表現される事もありますが、その「同盟国」韓国ですら日本の脅威である事を認識しておかなくてはなりません。その理由は、韓国が開発中の巡航ミサイルにあります。韓国は「主敵」である「北」への備えから、射程が500km以下の空対地ミサイル「若鷹(ポラメ)」や、同じく射程が1,000kmの地対地ミサイル「玄武(ヒョンム)U」を既に実戦配備しています。射程が1,000kmもあれば、朝露国境の北東部の一部を除く「北」の国土の殆(ほとん)どを照準に収める事が充分可能なのですが、韓国は現在、これに加えて射程が1,500kmの地対地ミサイル「玄武V」の開発を進めています。では、「玄武V」は何の為に開発されているのか? 答えは簡単です。「玄武V」は対北用のミサイルとして開発されているのでは無いと言う事です。例えば、韓国南部の木浦(モッポ)を中心とする半径1,500kmの円を描くと、その中には「北」の平壌(ピョンヤン)はおろか、「中国」(支那)の北京、台湾の台北、そして、我が日本の東京と近隣諸国の首都が全て射程内に収まる事が分かります。そして、韓国では日本の海上自衛隊への対抗意識から、短期間で軽空母にも改造可能な強襲揚陸艦「独島(トクト)」級や、国産イージス駆逐艦「世宗大王(セジョンデワン)」級(KDX-V)の建艦配備に力を入れており、「玄武V」の照準が日本に向けられていないと言う保証は何処(どこ)にも無いのです。

して、真打ちと言えば、矢張り「中国」を外(はず)す事が出来ません。「中国」吉林省通化の第二砲兵部隊(中国人民解放軍は陸海空三軍及び、戦略ミサイル軍たる「第二砲兵」の四軍から構成されている)基地には、日本全土をカバー可能な射程1,750km以上の核弾頭搭載型弾道ミサイル「東風(ドンフェン)21型」(DF-21)が配備されており、日本の主要都市及び自衛隊・在日米軍基地に照準が合わせられています。抑(そもそ)も、原発の建設と核兵器の保有はワンセットと言っても過言ではありません。核保有国同士が互いに核ミサイルの保有数を競う事はあっても、米国が「ヒロシマ」・「ナガサキ」に実戦使用して以来、今日に至る迄使われていないのは、核兵器を相手国に打ち込めば、相手国からも核兵器により報復される事が前提であるからです。又、それと同時に、核保有国の原発に対する攻撃に対しては、用いられたのが例え通常兵器 ── 非核兵器 ── であったとしても、核兵器を使ったのと同じと見なされ、報復攻撃には核兵器が使われる、それが世界の常識だからです。詰まり、「非核三原則」により核兵器を保有していない(保有しない)日本が「核の平和利用」と称して多くの原発を建設運用しているのは、原発と核兵器の保有はワンセットと言う世界的な常識から見れば、原発に対する攻撃への報復手段を持たない極めて不均衡な状態であると言えるのです。

後に、日本に原発は必要無い最大の理由を挙げて、本小論を締め括りたいと思います。東日本大震災が起きた3月11日当日発生の事故直後から囁(ささや)かれてはいたものの、東京電力、原子力安全・保安院の双方共に否定し続けてきた福島第一原発1号機の「メルトダウン」(全炉心溶融)。その「メルトダウン」を事故発生から2ヶ月も経った5月12日、東電がようやく認めた訳ですが、その原因も当初考えられてきた「大津波」による原子炉冷却機能の喪失では無く、どうやら地震の「揺れ」そのものが原因だった事が明らかとなりました。詰まり、福島第一原発は想定されてきた耐震基準を上回る揺れに襲われ、結果、今回の巨大地震の揺れに「耐えられなかった」と言う事になる訳です。これを「想定外」の三文字で括る事は容易い事です。然し抑も日本は、北は北海道から南は沖縄に至る迄、火山と地震の巣の上に国土が立地している訳で、有史以来、幾度と無く巨大地震と大津波に襲われて来ましたし、過去の震度を上回る巨大地震が今後も絶対に起きないと言う保証は正直、何処にも無いのです。そんな日本列島に「想定外」の揺れや津波に耐えられない様な原発を果たして建設し、今後も運用し続ける事が利口な人間のする事なのか? 地震や津波により倒壊した家屋は建て直せば済みます。然し、原発だけは、そう言う訳にはいきません。放射能と言う置き土産が残されるのですから。

り返しますが、極めて危険な放射性物質を扱い、国防の観点からも好ましく無く、更には火山と地震の巣の上に立地する日本に、果たして原発と言う一種「ナイーブ」な代物が必要なのか? 私は声を大にして言います。

日本に原発は必要無い!!

と。(了)


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